第97回 日中も90分ごとに眠くなるワケ
研究者らは、マウスの脳の神経活動を支える細胞内カルシウムの濃度を連続的に測定する手法を開発して、さまざまな脳領域の神経活動リズムを細かく調べた。その結果、体内時計から出たサーカディアンリズムのシグナルを脳内や全身に送る経由地が、実はウルトラディアンリズムを発振していることを発見したのである。具体的には次の図に示したように、室傍核(しつぼうかく)とその近くにある傍室傍核(ぼうしつぼうかく)である。
室傍核はもともと視交叉上核(しこうさじょうかく)と近接していて、生物時計で作り出された時刻情報が体中に伝達される最初の中継地となっている。また室傍核自体がホルモンを産生したり、神経回路を介して交感神経を活性化させたりするなど自律神経の最上位中枢として働いている。
室傍核や傍室傍核の周囲には、そのほかにも食欲や性欲、体温の調節に関わる神経核や各種ホルモンを産生する神経核が密集しており、これらの生体機能にウルトラディアンリズムを効率よく伝達するという面から見ると実に合理的な位置だと言えるだろう。
人のウルトラディアンリズムにはほかにも深夜から明け方にかけてと、昼食後から夕方にかけてピークを迎える12時間周期の眠気のリズムがある。こちらは多くの人が「感知できる」ウルトラディアンリズムである。昼食後から夕方にかけての眠気はpost-lunch dipと呼ばれ、「満腹になると眠くなる」と信じられているようだが、実際には食事を取らなくても生じる本物のウルトラディアンリズムなのだが、その発現メカニズムは未だ解明されていない。案外、似たような場所にそのセンターがあるのかもしれない。
つづく
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(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま かずお)
1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。
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