第108回 人はなぜ夢を見て、そして忘れてしまうのか

 これはネコを用いた実験で最初に確認された。脳幹の「橋(Pons)」から「外側膝状体(lateral Geniculate body)」というところを介して大脳皮質の「後頭皮質(Occipital cortex)」に向かう脳波がそのような神経活動の一つで、頭文字を取って「PGO波」と呼ばれる。外側膝状体も後頭皮質もともに視覚に関わる脳部位であり、人でもPGO波と類似の脳波が確認されている。

 レム睡眠中に大脳皮質が(おそらくランダムに)活性化され、各領域に保存されたさまざまな記憶が引き出され夢体験となると考えられている。特にPGO波で刺激される後頭葉の活動は夢中では鮮明な視覚体験となって現れているらしい。

 もちろん大脳皮質の活性化のされ方によっては音や匂いに満ちた夢があっても不思議ではない。実際、そのようなユニークな夢をしばしば見る人もいる。

 その一方で、「夢を全く見ない」という人もいる。そのような人でもレム睡眠はちゃんと出現している。夢を見なかった日に、時間を遡って当夜のレム睡眠をチェックすることはできないので厳密に実証することはできないが、普段ほとんど夢を見ないという被験者でもレム睡眠中に起こすと夢を見ていたと答えることが多いので、実際には夢を見てはいるが起床後に思い出せない場合が多いのだろう。

 なぜ思い出せる夢と、忘れる夢があるのか? その違いが生じるメカニズムについてはよく分かっていないのだが、一般的に言えるのは、悪夢のような情動を揺さぶられる夢、鮮明な体験の夢などは起床後に思い出しやすい。「PET(陽電子放射断層撮影法)」などを用いて睡眠中の脳の活動を調べると、怒りや恐怖などの情動の発生や記憶に関わる「扁桃体」や、記憶の保存に重要な「海馬」などの脳部位がレム睡眠中に活性化することが明らかになっている。

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