第1点目は、眠れば症状が治るのだから病気でないというのならば、原因を解決すれば症状が消えるものは病気でなくなる。例えばアレルギー性鼻炎や熱中症も、花粉や熱暑を避ければ症状が治るのだから病気でないという理屈になる。

 第2点目は、そもそも一晩眠ったくらいでは睡眠不足の悪影響は十分に回復していない。寝だめをすれば眠気が消えるので治った気でいるが、慢性的な睡眠不足状態に陥ると、ストレスホルモンや代謝機能は週末の寝だめだけでは回復しないのである(第62回「眠くない寝不足「潜在的睡眠不足」の怖さ」)。

 実際、睡眠不足はその自己選択的な行動も含めて本当に病気として扱われている。国際的な睡眠・覚醒障害の診断基準でも「睡眠不足症候群(insufficient sleep syndrome)」という立派な病名がついている。寝不足自慢をする人には「寝食を忘れて何かに打ち込む」ことを美徳だと感じている人が多い。「病気」と言われて腹を立てる人もいる。私もその気持ちは分かるが、健康生活の持続可能性の観点からは異議がある。

 ここで睡眠障害国際分類(International Classification of Sleep Disorders)による睡眠不足症候群の診断基準を紹介する。理解しやすいように表現を書き直してある。

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以下のA〜Fまでを満たしたときに診断する
A. 耐えがたい眠気があり、実際に日中に居眠りをしてしまうことが毎日ある。小児では異常行動(いらいらや落ち着きなさ)として出現することもある。
B. 睡眠日誌やアクチグラフ(ウェアラブルデバイス)によって、同年代の平均的な睡眠時間よりも実際に短時間睡眠であることが確認される。
C. 睡眠不足の睡眠習慣が少なくとも3カ月間、ほとんど毎日認められる。
D. 目覚まし時計などを使わない週末や休暇中には寝だめが見られる。
E. 睡眠時間を十分確保すれば眠気の症状が解消する。
F. 症状は他の睡眠障害、薬物、疾患が原因ではない。
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 この診断基準からも分かるように、短時間睡眠による症状(眠気)があるかどうかが診断の決め手であり、短時間睡眠の理由や状況は考慮されない。食習慣が原因で糖尿病や痛風になった時でも、なぜ食べ過ぎたのかは問われないのと同じである。

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