第34回 睡眠の定義とは何か?―「脳波睡眠」という考え方

 今回は睡眠の定義について考えてみたい。連載も30回を超えてからこのテーマは今更感があるが、一度は触れておかなくてはならない。当然、この連載でも初期のうちに取り上げるつもりであったが、タイミングを逸してしまっていた。特に人の睡眠を理解するためには「脳波睡眠」という考え方が重要であり、今回のキーワードである。

 睡眠の定義とは何かという問いに「目が覚めていない状態」と答えればはぐらかされたと怒る人もいるだろう。しかし実際のところ、睡眠研究の黎明期では「睡眠とは周期的に意識が消失する状態」といった程度の定義しかできなかった。しかもこの定義には一つ大きな問題があった。意識の定義が睡眠の定義以上に複雑なのである。

(イラスト:三島由美子)
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 意識の研究は睡眠以上に長い歴史がある。意識を、(1)覚醒している素朴な意識状態(シンプルな覚醒状態)、(2)快、不快、恐怖など情動を伴った意識状態、(3)注意や認知が可能な明敏な意識状態(洞察や価値づけなどの精神活動)、の三層構造に分ける考え方がある。(1)から(3)に向かって低次から高次の意識状態となる。(2)(3)は(1)に包含される。私たちが目覚めている状態とは(1)素朴な意識状態に相当する。ぼんやりと起きている時も、物事に集中している時もこれに含まれる。

 どの意識状態も科学的に定義するのは大変なのだが、素朴な意識状態、すなわち覚醒状態については定性的、定量的に表現できる生体指標が登場して一気に研究が進展した。その指標とはドイツのハンス・ベルガーが1920年代に発見した脳波である。研究者は脳波が測定できるようになってはじめて覚醒状態を定義できる科学的言語を入手したのであった。脳波の発見を契機として睡眠は哲学や文学だけではなく、自然科学の俎上にも載ったといえる。

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