ただし、事はそう簡単に運ばないだろう。遺伝子操作でレム睡眠が消失したことと、このマウスが元気で生きられるかは全くの別問題で、そこには深い谷が存在するからである。実際、これまで遺伝子操作で睡眠や生体リズムの機能を変化させた動物は胎児期に死亡したり、運良く生まれてきても老化が早かったり、生活習慣病やがんに罹りやすかったり、脳の発育が悪かったりと、さまざまな問題を抱え、一般的に短命であることが分かっている。

 今回誕生したレム睡眠のないマウスもまさにレム睡眠とともに寿命まで削っている可能性がある。この研究グループも「初めてレム睡眠がなくなっても生きられる個体の存在を確認しました」と書いているのでよほど意外だったのだろう。今後レム睡眠の生理的な役割を探索すると含みを残している。いずれ、このレム睡眠のないマウスについても長期的な経過について報告されるだろうが、全く健康面に問題がないとすればそれこそホームラン級の発見である。

 睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠に分けられるが、鳥類や両生類などにもみられるレム睡眠に比較して、ノンレム睡眠、特に深いノンレム睡眠は大脳が発達した霊長類に特徴的な睡眠で、睡眠全体に占める割合も非常に大きい。脳が最も成長する乳幼児期には睡眠時間自体が長いが、とりわけ深いノンレム睡眠の比率が高く、睡眠の50%以上を占める。一方、レム睡眠はせいぜい30%程度である。1日24時間のうち1/4以上を深いノンレム睡眠状態で過ごすのである。

 このようなデータから、「人間にとって大事な睡眠は深いノンレム睡眠であって、レム睡眠は重要ではない」、「レム睡眠をおろそかにしても、寝始めの3時間に現れる深いノンレム睡眠を効率的にとれさえすれば大丈夫」などという話をネット上で散見するが、それは間違いである。脳への影響1つを取っても、レム睡眠は脳内の神経ネットワークの構築に深く関わり、記憶や学習、気分調節に大事な役割を果たしていることが分かっている。

健康な成人の典型的な睡眠の経過図。この例では0時に就床(消灯)して8時過ぎに起床している。深いノンレム睡眠(最もへこんだ部分)は睡眠の前半に主に出現し、レム睡眠は眠る時間が長くなるにつれて増える。(画像提供:三島和夫)
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