一般的に睡眠不足は若年〜壮年層(40歳台半ばまで)に多い一方、不眠症はリタイア世代(60歳台以降)で急増する。その移行期にある中年層では睡眠不足と不眠症が混在しやすい。中間管理職世代は辛いのである。不眠症と睡眠不足では治療や生活指導が全く異なるので、どちらが主たる問題なのか判断する必要があるのだが、診察でその区別をつけるのは簡単ではない。その理由の一つは、不眠症の診断基準が抱える「曖昧さ」にある。

 不眠症の診断基準では、①入眠困難(寝つきが悪い)、②中途覚醒(途中で目が覚める)、③早朝覚醒、④熟眠障害、が四大症状とされていた(過去形にした理由は後述する)。これらの不眠症状のうちの少なくとも一つが存在し、かつそのために日中の疲労・倦怠感、眠気、パフォーマンスの低下、いらいらや気分の不良など不調が生じている場合に不眠症と診断することになっている。

 ところが、不眠症状、日中症状のいずれも、睡眠不足でもしばしば認められるため、診断基準だけでは不眠症と睡眠不足の鑑別が難しい。とりわけ、中年世代に入り不眠症と睡眠不足が混在するようになると、日中の体調不良がどちらが原因で生じているのか、ますます分からなくなってくる。実際のところ、疲労や眠気をはじめ、不眠症と睡眠不足には似通った症状が多く、ご本人が訴える症状だけでは見分けがつかない。加えて、頼みの綱の睡眠ポリグラフ検査も行える施設はごく限られており、国内に約800万人いる慢性不眠症患者に対応することなど到底できない。

 4つの不眠症状の中で、臨床現場でもっとも曖昧だと不評だったのが④熟眠障害である。熟眠障害とは、睡眠の質が悪い、眠った気がしない、朝起きても疲れが取れていない、などの症状をさし、睡眠不足のときにも全く同じような症状が出る。深睡眠は保たれているのに「睡眠の質が悪い」と感じるのは不思議だと思われるかもしれないが、睡眠不足で睡眠充足感が乏しいと、質が悪いと感じてしまう。皆さんも体験があるはずだ。(参考記事:「「睡眠は短くても深ければOK」のウソ」

 とはいえ熟眠障害は患者さんにとって一番の悩みの種で、「朝起きた直後から気分が落ち込む」「一日が台無しになる」などとても苦しい症状であるため、熟眠障害が治らない限り治療に満足してもらえないことが多い。

次ページ:不眠症と睡眠不足を見分けるには

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