3)体内時計同士のズレ

 初日の商談では失敗したK氏であったが持ち前のバイタリティーで得意先回りや暇を見ての観光など精力的に動き回った。日光を大いに浴び、体内時計を現地時刻にがっちりとリセットしたはずのK氏であるが、今ひとつ調子が悪い。

 時差ボケは到着直後に一番ひどく、日が経つにつれて改善するような印象を持っている方が多いと思うが、実は必ずしもそうではない。到着後数日しても調子が悪い、むしろ不眠や眠気、食欲低下などが到着直後よりも悪化することもある。これは旅疲れだけではなく体内時計同士のズレが原因であることが少なくない。「同士」とはどのような意味なのか?

 ここで豆知識2。生体リズムを作り出す基本システムは時計遺伝子群が担っている。今回は詳しく説明する紙幅がないが、我々の体の細胞の1つ1つにリズムを刻むための時計遺伝子セットが整っており、普段の生活ではマスタークロックの支配下で日々の時刻調整をしながらホルモン分泌、神経活動などいろいろな生体リズムを維持している。これら全身の細胞や臓器が担う時計活動をマスタークロック(親時計)と対比的に末梢時計(子時計)と呼んでいる。

 体内時計同士のズレとは親時計と多数の子時計の相互の時間関係(タイミング)がばらばらになってしまうことを意味する。体内で時刻のズレが生じることから「内的脱同調」とも呼び、やはり時差ボケの原因となる。このようなことが生じる原因は、親時計と子時計たちの現地時刻への同調速度がまちまちだからである。

 親時計の同調スピードはダントツに速いが、子時計の同調スピードは親時計よりも遅く、中にはなかりの鈍足もいる。体温やメラトニンなど睡眠や覚醒を調整する主要な子時計が渡航先時刻に同調し、外的脱同調が概ね改善するには7〜10日かかる。したがって大部分の海外旅行では現地でよく眠れるようになった途端に帰国する羽目になる。ただし、この時点でも内的脱同調は解消されていない。たとえば消化器担当の子時計などは同調を達成するのに1カ月以上かかるとも言われる。

次ページ:内的脱同調はなぜ時差ボケの原因になるのか

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