第95回 「睡眠薬で認知症にかかりやすくなる」は本当か

 認知症のリスクに関しても新しいタイプの睡眠薬については心配ない。ただし悩ましいのは1970年代から90年代にかけて開発された少し古いタイプの睡眠薬(ベンゾジアゼピン受容体作動薬)で、認知症のリスクを高めるかどうかいまだに白黒がはっきりついていない。しかも国内で流通している睡眠薬のうち、この「グレーゾーン」にあるベンゾジアゼピン受容体作動薬が現在でも実に9割を占めるのである。

 ところで一口に認知症のリスクが高まると言っても、その危険度がどのくらいなのかキチンと説明している記事はほとんど無い。そこで今回はこれまでの調査結果を少し詳しく眺めてみる。

 睡眠薬のような薬物に限らず、たばこや酒、ある種の食品などを摂取していることが、認知症や糖尿病、がんなどの病気のリスクを高めるか明らかにする場合、その物質を摂取(専門用語では曝露と呼ぶ)した人々と曝露していない人々を数年から十数年など長期間にわたって追跡する「コホート研究」が行われる。その物質が本当にリスクを高めるのであれば、暴露している人々でより発症率が高くなるはずである。

 例えばフランスで行われたあるコホート研究では、平均年齢78歳の地域住民1000人以上を対象にして、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を服用している高齢者と服用していない高齢者を最長15年にわたり追跡した。

 気になる調査の結果はと言うと、服用している高齢者の方が服用していない高齢者に比較して1.5倍、認知症にかかりやすいことが明らかになった。他にも同種のコホート研究が延べ5万人近くの高齢者を対象にして行われており、「認知症のリスクを高める」と結論づけた研究の大部分は似たような結果が得られている。

 ちなみに、調査対象となったベンゾジアゼピン受容体作動薬は何十種類もあり、その中で不安緩和作用の強いものは抗不安薬(いわゆる安定剤)として、催眠作用の強いものは睡眠薬として処方されている。そして、先の調査では抗不安薬と睡眠薬のいずれか(もしくは両方)を服用していた高齢者がひとまとめに対象となっている。服薬時間帯が抗不安薬は昼、睡眠薬は夜なので脳に与える影響も異なるのだが、ここら辺は調査結果を解釈する上での限界である。

 いずれにせよ、日本人の実に5%以上が医療機関から処方されたベンゾジアゼピン受容体作動薬を定期服用しており、とりわけ認知症が気がかりな高齢者での服用率が高いため、心配になる人が続出するのは当然である。

次ページ:「1.5倍」を細かくみると

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