夜勤が健康に与える影響には中長期的なものと短期的なものの2種類ある。

 中長期的な影響の中で最も深刻なのは生活習慣病やがんに罹患するリスクの増大だ。夜勤に従事してから5〜10年ほどで糖尿病や高脂血症などの生活習慣病のリスクが、10年以上の勤務で直腸がん、子宮がん、乳がん、前立腺がんなどのリスクが高まるとされる。2007年にWHOの関連機関である「国際がん研究機関」は「交代勤務に発がん性あり」と認定したので一時大騒ぎになった。

 デンマークでは長期間夜勤に従事した女性が乳癌に罹患した際に労災認定されたことも話題になった。ただし、中長期的な影響については発症メカニズムや対策法など今後さらに調査研究が必要である。対象となる労働者の数が莫大であるため、パンドラの箱になりかねない。24時間社会の抱える公衆衛生上の問題として座視できない問題として急浮上しつつある。

 一方、短期的な影響には勤務中の眠気や夜勤明けの不眠のほか、作業能率の低下による産業事故の問題などがある。夜勤従事者の約半数がこれらの睡眠に関連した問題で悩んでいる。短期的とは短期間しか持続しないという意味ではなく、夜勤に入ると即時的に現れてくる健康問題という意味である。夜勤が続く限りこれらの問題から逃れることはできない。今回は夜勤者にとって身近な眠気の問題について考えてみる。

 このコラムでは何度も説明しているが、しっかりした目覚めや質の良い睡眠を得るためには、就床時刻と睡眠を支える自律神経やホルモン分泌など数多くの生体機能のリズム(タイミング)がうまくマッチしている必要がある。

 体内時計は「夜に眠気が強くなる」、「昼に目が覚める」ように常に脳と体に働きかけている。したがって夜間時間帯に効率よく仕事をしようということ自体、無茶な話である。であればと、「夜勤の日だけ体内時計の時刻を昼夜逆転できないか?」という対策が頭に浮かぶ。睡眠問題をよく勉強している労務管理の担当者の方々からも質問を受けるのだが、これは非常に難しい。

 最大の理由は体内時計の調整にはかなり時間がかかること。夜勤時間帯に眠気もなく活発に仕事ができるようにするには丸々12時間近くも体内時計をずらす必要がある。夜勤に体内時計を合わせるには3週間程度を要するのだ。

 眠気や睡眠に大きな影響を及ぼす深部体温(脳の温度)を例にして説明しよう。

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