第56回 明るい寝室は不眠のもと、暗い朝は寝坊のもと

 話題を朝日から夜間照明に移そう。

 これまでの話からも分かるように、寝室の明るさは想像以上に睡眠に影響がある。一晩中寝室の照明を点けておいた方が眠りやすいと話す人もいるが、暗闇だと不安や緊張感が増すなど特別な理由がある場合は別として「しっかり暗くして寝る」方が眠りの質はよくなる。その証拠のひとつとして、次のような実験結果がある。

 0.3ルクスから家庭照明に相当する300ルクスまで寝室の照度を何段階かに分けた条件下で、同じ被験者に繰り返し寝てもらい睡眠の質がどうなるか比較した結果、0.3ルクス(ほぼ暗闇)に比較して、室内照度が明るくなるほど睡眠が浅くなり、50ルクス(薄暗い部屋)程度でも睡眠の質が有意に低下することが明らかになっている。

 寝室の照明を点けたまま寝ると、睡眠中にも関わらず毛布を頭から被るなどの光を遮る行動がしばしばみられ、そのたびに睡眠段階が浅くなることが多い。自分では照明を点けた方が寝やすいと思っても、それは寝つくまでの間のこと。睡眠に入ってしまえば、脳は光刺激を嫌がっているわけである。照明を点けて眠りたければタイマーなどで一定時間で自動消灯するように工夫するとよいだろう。

 ここからは経験談になるが、私自身、電気を消し忘れたときは勿論のこと、小さなスタンドランプを点けているだけで、中途覚醒が増えてしまうのを実感している。どのようなタイミングで目を覚ましたか記録を付けたことがあるが、寝ついてから3、4時間後に目を覚ますことが多いようだ。

 睡眠の深さの周期からすると、この時間帯はちょうど2回目のレム・ノンレムサイクルが終了し、眠りが一旦浅くなる時間帯に相当する。照明が点いていなければそのまま再び睡眠が深まっただろうに、光による網膜刺激で覚醒まで押し上げられたのだと思う。

 現代生活では真の暗闇を経験することは少ない。夜間はしっかりと照明を切り、そして明け方は自然光を活用できれば、私たちの眠りももう少し質が高くなるだろう。ちなみに私は仕事部屋に置いていた蛍光灯ライトスタンドを枕元において、タイマーで点灯するようにしたところ朝の目覚めは随分と楽になった。今後、日の出が遅く、暗くなる秋口から冬にかけて一層威力を発揮してくれるだろう。

 最近ではDawn simulationができるように、照明の明るさや色が時刻ごとに細かく設定できる照明器具なども市販されている。ベッドが窓に近ければカーテンを開けて寝るだけでも効果があるが、女性などは防犯面などから難しいので、起床に困っているようであれば利用しても良いかもしれない。ちなみに、白熱灯では覚醒効果をもたらす青色光成分がごくわずかしか含まれていないので覚醒効果は乏しいことも知っておいて損はない。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。