対策④ 社会的ジェットラグのリスクを知る

「そこまでして社会的ジェットラグを解消する必要はない」「週末の寝だめが至福の時間」という方々も少なくない。それはそれで個人の価値観なのでとやかく言うつもりはない。ただ、社会的ジェットラグはさまざまな健康リスクと関連していることだけは知っておいて損はない。その上でライフスタイルを取捨選択するのが現代人の知恵だろう。

 社会的ジェットラグに陥っている人では、軽度ながら毎週繰り返す体内の時差ボケと比較的大きな睡眠負債により、ストレス応答機能の異常や様々な臓器の遺伝子発現の日内リズムの異常まで生じることが分かっている。マウスを使った研究では不妊の原因となることも報告されている(第55回「妊活するなら脱「週末の夜更かしと朝寝坊」」)。

 実際、これまでの数多くの疫学研究やシミュレーション実験により、社会的ジェットラグが大きい人ほど、労働能力の低下、肥満や体脂肪の増加、メタボリックシンドロームの罹患率(脂質異常、糖代謝異常)、うつ病の罹患率などさまざまな健康リスクが高まることが明らかになっている。社会的ジェットラグは机上の論議ではなく、リアルワールドの問題なのである。

「至福の時間」と「健康リスク」のどちらに価値を見いだすかは人によって、また年代によって異なるだろうが、寝だめ生活のリスクは一般的なイメージよりもはるかに重いことは知っておいてほしい。

 私たちの睡眠パターンは「何時頃に眠りやすいか(体内時計)」と「どれだけ眠れば疲労が回復するか(必要睡眠時間)」の相互作用で決定される。これらは遺伝的(体質的)な影響を受けているため大きな個人差がある。一方で、自分の体質に合った睡眠パターンに合わせて自然体で生活できる人は少ない。社会的に要請されたスケジュール(腕時計)と生体リズム(体内時計)の2つの時計のミスマッチに悩む人々がいる。夜型ブルーマンデー、社会的ジェットラグはその代表格なのである。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

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