第29回 “青木まりこ現象”からみた不眠の考察

「一時は読書で条件付けられた寝室での睡眠反射(眠気)を獲得したものの、何らかの原因でその効果が減弱し、寝室という空間で眠気が出ないままに読書を続けるという体験を繰り返すあまり、ついには寝室に入ると眠気が飛んでしまうという新たな条件反射を獲得してしまった一群」、これはまさに不眠症の人々のことではないか!

 読書に限らず、音楽、テレビ、アロマなど寝つくまでに何気なく行っている習慣をお持ちの方も多いだろう。寝室での眠る前のちょっとした儀式。しかし、その儀式が不眠の悪魔を呼ぶ黒魔術と化したとしたら……。

 あるとき、ちょっとした人間関係の悩みで不眠気味になったとしよう。家族の心配、皮膚の痒みなど、きっかけは何でも良い。それまでは布団に入ってちょっと退屈な小説とか、学習本を読んでいるうちに知らぬ間に寝落ちしていたのに、悩み事ができてからなかなか眠気が来ない。先週は50ページ、今週は1章読んでもさっぱり眠れない。そのうち1晩に1冊読み通してしまうのではないか……。

 何カ月も不眠で悩むうちに、「どうせ今晩も眠れない」というあきらめの境地に至る。読書も何気ない習慣ではなくもはや苦行である。寝る時刻が近づくのが憂鬱だ。リビングのソファーでふと眠気を感じて寝室に向かっても、ベッドに横になると目が冴える。そのうちに、寝室に向かっただけで目が覚めるようになってきた。長〜い御鈴廊下(おすずろうか)を通って大奥に行くわけじゃあるまいし、わずか数メートルの間に何が起こっているのか!?

 これは毎晩、寝室で悶々と苦しい思いをしているうちに、「寝室=眠れない苦しい場所」という記憶が定着し、寝室に入ると、いや寝室に向かう廊下に立っただけで眠気が飛んでしまうという新たな条件反射を獲得してしまったのである。逆に寝るつもりのないソファーや電車の中ではすぐにウトウトできる。不眠症は不眠恐怖症、ひいては寝室恐怖症(寝室不眠)と呼ばれる所以である。

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