第127回 うつが「夜型生活」の避けがたいリスクである理由

 夜勤や海外旅行のように12時間近くものズレではなく、数時間程度の比較的小さなズレでも抑うつ気分が生じることが一般生活者を対象にした研究で明らかになっている。

 例えば、ブラジルの一般住民4000名を対象とした調査では、平日と週末の間で睡眠時間帯のズレが大きいほど抑うつ気分が強いことが示されている。夜型生活の人は平日には頑張って定時に出勤しても、週末に夜更かしと寝だめをして大幅に睡眠時間が遅れるため、1週間の間に2時間〜4時間程度の比較的軽度な内的脱同調が生じることが多く、これは社会的時差ボケと呼ばれる。ブラジルの住民調査は抑うつ気分が夜型生活による社会的時差ボケと関連することを意味している。

 北欧とロシアの若者3400名を対象とした調査でも社会的時差ボケが大きいほど高緯度地域に特有な冬季うつ病に罹患しやすいことが明らかになっている。冬季うつ病については第13回「もっと光を! 冬の日照不足とうつの深~い関係」から3回連続で詳しく解説したのでご参照いただきたい。

 社会的時差ボケは週内で変動する内的脱同調だが、精神科を受診するようなうつ病患者さんでは、週末や平日にかかわらず恒常的に内的脱同調が生じていることが多数の報告で示されている。うつ病では睡眠時間帯に対して、体温やホルモンなどの多くの生体機能リズム位相が早まっている(位相前進している)というのが大部分の研究での共通した知見である。

 生体機能リズム位相が早まると言うことは、見方を変えれば体内時計に対して相対的に「夜型生活」を送っているとも言える。そこで、うつ病患者の睡眠時間を前倒しするとうつ症状が改善するか試す研究が幾つも行われた。中でも米国の国立精神衛生研究所のグループが行った研究が有名で、短期間に明瞭な抗うつ効果が得られたと報告したため一時期大きな関心を引いた。ただし、人間の睡眠の特徴として夜更かしはできても早寝をさせるのがなかなか難しいため、睡眠相前進療法は臨床現場で普及しなかった。

 その後、スイスやイタリアの研究者らが同じく抗うつ効果が実証されている断眠療法や高照度光療法と組み合わせることで睡眠時間帯を持続的に早めることに成功し、薬物療法で改善が見られなかった患者に対しても高い治療効果が得られたと報告している(第40回「帰ってきた断眠療法―眠らずにうつ病を治す」)。

 夜型生活を送る人々の中に抑うつ傾向の強い人が多いことは昔から知られていた。今回紹介した研究データからも、抑うつのために夜型生活に陥っているのではなく(そのようなケースもあるだろうが)、夜型生活自体が気分の悪化を招く要因となっていることがお分かりになったと思う。コロナ禍の影響でリモートワークが普及するに従い、夜型生活に陥っている人々が増加しているという調査結果もある。不必要に生活リズムが崩れないように心がけた方がよさそうである。

つづく

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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。