実際の屋外での熱暑環境の場合、湿度がより高く、直射日光を浴びるなど悪条件が重なることを考え合わせると、睡眠不足時には熱暑環境や運動などによって深部体温が高くなりやすく、熱中症のリスクが高まるという指摘には程度科学的根拠があると考えて良さそうである。

 なぜ睡眠不足時に深部体温が上昇しやすいのか、そのメカニズムはよく分かっていない。先の研究のデータを細かく見ると、ウオーキングで深部体温が上昇した際、安全弁として働くはずの皮膚からの放熱(冷却)が高まっていないことから、脳内の体温センサーや放熱をコントロールする自律神経に何らかの機能低下が生じているのかもしれない。また、この研究では調べられていないが、熱中症ではインターロイキン-6など体の炎症を引き起こす免疫物質の血中濃度が急上昇することが知られており、体温上昇やその他の症状を悪化させている可能性もあるらしい。

 労働安全衛生総合研究所では熱暑条件でのウオーキング後に昼寝(20分)をとらせ、深部体温を低下させる効果があるかも調べている。残念ながら、眠気やパフォーマンスの改善は見られたものの、睡眠不足による深部体温の上昇を防止する効果は認められなかった。第9回「眠気に打ち克つ力 その3 ―知らぬ間に膨れあがる寝不足ローンにご用心」でも紹介したように「昼寝で解消できるのは眠気だけ」という睡眠不足の鉄則が熱中症にも当てはまるようである。

 やはり熱中症対策には、夜中にグッスリ眠って体調を整え、水分をこまめにとって、塩分(ミネラル)も適度に補充し、室温や湿度に気をつけるなど地道な対策しかなさそうである。2010年の二の舞にならないように皆さん、気をつけましょう。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

おすすめ関連書籍

朝型勤務がダメな理由

あなたの睡眠を改善する最新知識

「ためしてガッテン」などでおなじみ、睡眠研究の第一人者が指南!古い常識やいい加減な情報に振り回されないために知っておくべき情報を睡眠科学、睡眠医学の視点からわかりやすく説明。

定価:1,540円(税込)

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る