第94回 睡眠不足は熱中症の大敵、昼寝も味方せず

 熱中症とは、暑い環境に体が順応できず、脱水や深部体温(脳や内臓の温度)の上昇によって生じる心身の異常全般をさす。めまい、頭痛、吐き気、倦怠感などで始まり、ひどい発汗(逆に汗が出なくなることもある)や頻脈が出現する。症状が強いと筋肉の痛みやけいれん、失神、意識障害に陥る。重症になると内臓への血液循環が悪くなり臓器不全が起こり死に至ることもある怖い病気なのだ。

 以前は「日射病」という言葉もよく使われていたが、これは直射日光を浴びてなる熱中症のことである。ただ、屋内屋外を問わず高温や多湿が原因となって熱中症になることがあるため、この呼び名を使うことは少なくなった。湿度が高いと25℃程度の室温でも熱中症が起こることがあり、30℃を超えると患者が急増する。

 熱中症は幼児や高齢者で起こりやすいことはよく知られているが、冒頭で紹介したように睡眠不足や質の悪い睡眠(不眠)もリスクを高めると記載してある文献が確かにある。ところが、幾つかの総説に目を通してみても、しっかりと実証した研究は数えるほどしかなかった。

 なにせ、調査研究の対象は心身に大きなダメージを与えかねない熱中症である。睡眠不足や不眠のある人を熱中症を本当に生じかねない熱暑環境にさらすような危険な実験は倫理的に許されない。自ずと研究方法には制約がある。また、睡眠状態の視点から熱中症の発症リスクを検討したしっかりとした疫学調査も行われていないようだ。

 では、なぜ「睡眠不足が熱中症のリスクになる」という記事が出回っているのだろうか? 調べてみてもその出典を明記している記事は見つからなかったが、私が調べた論文の中では独立行政法人労働安全衛生総合研究所による試験結果がもっとも説得力があった。

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