第1のハンディキャップは「目覚める力が低下する」ことである。認知症では多数の神経細胞が変性(死滅)してしまうが、覚醒状態を維持する神経細胞がダメージを受けることも少なくない。そのため一見しっかり目覚めているように見えても簡単に意識障害(もうろう状態)に陥ってしまう。ある種のタイプの認知症では頻繁にもうろう状態に陥り、幻覚(幻視)がみられることが診断の手がかりとされているほどだ。

 第2のハンディキャップは「眠る力が弱まる」ことである。眠る力は日中の運動量や精神活動に影響される。心身をよく使えばよく眠れるのだ。ところが認知症があると自宅や施設内に行動を制限されている場合が多く、運動量も社会活動も乏しくなる。加えて認知症では先の覚醒力低下によって昼寝が増加するため睡眠のニーズをさらに大きく損ねてしまう。これでは睡眠の持続力は高まらず夜中に目覚めてしまうのも道理である。

 第3のハンディキャップは「体内時計が壊れる」ことである。特にアルツハイマー病では発症のごく早期から体内時計(視交叉上核)の細胞が死滅するため、睡眠覚醒リズムが乱れてしまう。認知症が進行すると昼夜のリズムが崩壊し、いつ眠りいつ目覚めるのか予測がつかなくなってくる。私たちが普段の生活で浴びている日光は強い覚醒効果があり体内時計の調整作用もパワフルなのだが、行動が制限されている高齢者では日光を浴びる機会が極端に少なくなる。そのためただでさえダメージを受けている体内時計がさらに不安定になる。残念なことに室内照明は日光に比べて格段に照度が低く、体内時計の調節には全く不十分である。

 このように認知症のある高齢者では健やかな睡眠と目覚めを害する三重苦を抱えているのである。

次ページ:逆に、睡眠障害が認知症のリスクを高める要因にも

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る