第28回 認知症と睡眠の切っても切れない関係

 認知症が睡眠障害を引き起こすだけではなく、逆に睡眠障害が認知症のリスクを高めることも明らかになってきた。

 米国の調査だが平均年齢83歳の高齢女性1282人を約5年間追跡したところ、期間中に195 人(15%)が認知症を発症し、302名(24%)は軽度認知障害(認知症の手前の状態)になった。この数字自体は年齢を考えれば妥当である。この調査ではアクチグラフという高性能万歩計のような機器を用いて、調査に参加した高齢者の活動量を分単位で計測している。このデータを解析すると日中の活動性や睡眠の様子を客観的に知ることができる。その結果、日中の活動性が低く夜間の眠りの質が悪い高齢者は5年後に認知症や軽度認知障害になるリスクが1.57倍高かったそうだ。

米国の地域在住の高齢者1,282名を対象にした調査の結果、メリハリのない活動リズムが認知症になるリスクを高めることが明らかになった。日中の活動量が少なく、逆に睡眠の質が悪いために夜間の体動が多い高齢者では、約5年後に認知症やその手前の状態である軽度認知障害に陥る頻度が1.57倍高かった。(イラスト:三島由美子)
[画像のクリックで拡大表示]

 この結果はどのように読み解けば良いのだろう? 日中の活動性の高い高齢者は、社会参加も活発で、頭をよく使い、運動量が多く、さまざまな感覚刺激を受け、食事を含む規則正しい生活スタイルを維持しているのだろうか。これらの各要素は認知症の予防に有効であるという報告がある。合わせて一本! といったところなのだろう。

 メリハリのない活動リズムがアルツハイマー病の発症と関連していることは動物実験からも裏付けられている。

 アルツハイマー病ではアミロイドβというタンパク質が脳内で過剰に蓄積することが病因と考えられている。アミロイドβは健康な人の髄液中にも存在するが普通はごく短時間で分解される。アミロイドβ濃度にはもともと昼間に高く夜間に低いというリズムがあるが、アルツハイマー病患者ではこのアミロイドβの昼夜リズムが崩れているのだ。特に夜間のアミロイドβ濃度の「高止まり」が発症を促しているのではないかと考える研究者もいる。

 睡眠の質もアミロイドβ濃度に影響するらしい。たとえば、最近登場した新しい睡眠薬であるオレキシン受容体拮抗薬。この新薬は覚醒物質であるオレキシンを抑えることで睡眠を促すだけではなく、夜間のアミロイドβ濃度を下げる効果もあるという。逆に徹夜(断眠)させるとアミロイドβ濃度は上昇する。このようなデータを見るとメリハリのある睡眠リズムを保つこと、質の良い睡眠を保つことがアミロイドβの蓄積を抑える観点からも良さそうである。

次ページ:睡眠障害は認知症の予兆?