第27回 在宅介護を破綻させる認知症の睡眠障害

 私たちの研究班では、在宅で介護を受けている、もしくはグループホームに入所中の認知症高齢者594名を対象にどのような辺縁症状が介護上の問題となっているのか詳細な実態調査を行った。図にはそのときに現場から報告された辺縁症状を出現頻度順に並べたものだ。被害妄想、幻覚、徘徊、火の不始末など「ボケ症状」としてよく知られている異常行動が並んでいるが、これらを押さえてトップにランクされたのが不眠や昼夜逆転などの睡眠障害であった。同種の調査は過去にもさまざま行われており、睡眠障害は絶えず上位にランキングされる「常連」である。

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 睡眠障害が認知症の介護で問題となるのはナゼか? それは単に夜間に目覚めるだけではなく、同時にさまざまな辺縁症状を伴いやすいからである。たとえば同じ徘徊でも夜間に動き回られると家族は大変である。足下が暗いので転倒や骨折も起こしやすい。そのほか大声しかり、火の不始末しかり。また認知症では夜間覚醒時に軽い意識障害を伴うことが多い。これは「せん妄」と呼ばれる。せん妄状態では周囲の状況が認識できなくなるため、不安や困惑が強まって昼間よりも興奮しやすく、異常行動も重症化する。睡眠障害はせん妄を引き起こし、悪化させる最大の原因でもある。

 そのため、睡眠障害は在宅介護を困難にさせる一因になっている。実際、我々の調査でも「在宅で介護を受けている高齢者」と「グループホームに入所を余儀なくされた高齢者」ではどのような違いがあるのか統計学的な検討してみたところ、中核症状の重症度には違いが見られなかった。すなわち物忘れは在宅介護を困難にさせる主要因ではなかった。では家族に入所を決断させる要因とは何か? 影響の大きいワースト3を挙げると、第3位は男性であること(女性に比べて危険度1.3倍)、第2位は攻撃的行動があること(無い場合の2.2倍)、そして第1位は予想通り睡眠障害があること(同4.5倍)であった。

 睡眠障害が重症になるほど辺縁症状は悪化し、逆に睡眠障害が改善すると辺縁症状も緩和されることが明らかになっている。つまり、認知症患者に夜間によく眠ってもらうことは介護負担を軽減するためにとても有効なのだ。ところが認知症の睡眠障害を治すのは本当に大変なのである。安全で有効な薬物療法は残念ながら見つかっていないからだ。認知症では薬が作用するはずの脳部位にそもそも障害があるため効果が出にくく、増量すると逆に副作用が目立つようになる。

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