第27回 在宅介護を破綻させる認知症の睡眠障害

 誤診も隠れた問題である。睡眠障害と一口に言っても認知症に合併しやすい睡眠障害は実に多岐にわたる。次の図に示すように睡眠薬が奏功する不眠症などはむしろ少数派であり、多種多様な睡眠障害に罹患しているのである。これらの睡眠障害には睡眠薬は効果が無いばかりか、症状を悪化させることすらある。図に挙げられた個別の睡眠障害については私たちが作成した睡眠医療プラットフォームで解説しているのでご興味のある方はご覧いただきたい。

アルツハイマー病、レビー小体病、その他は認知症の種類
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 したがって正確な診断が治療の成否の分かれ目になる。それぞれの睡眠障害には、日中の眠気、夕方以降の足のムズムズ感、寝入りばなの足のピクツキ、睡眠中のこむらがえり、悪夢、いびきなど特有の症状があり診断の参考になるのだが、認知症患者では自身の症状を正確に説明できないことが多い。

 また確定診断に必須の睡眠ポリグラフ試験にもなかなか協力が得られない。そりゃそうだ、頭皮や顔面、手足や胴体に多数の脳波や筋電図の測定コードを貼り付けられて寝やすいわけがない。貼った端からキレイに引っぺがすご老人も稀ではない。ましてや一晩の検査を実施するのは一苦労なのだ。

 そのため診断の際にはどうしても家族の陳述に頼ることになるのだが、ここに大きな落とし穴がある。介護上の負担感が大きい夜間の中途覚醒に訴えが集中し「不眠症」と誤診しやすいのだ。私が「不眠あり=不眠症、ではない」ということを講演や講義の際に絶えず強調するのはこのような理由による。正しい診断なしには有効な治療も期待できない。夜間の不眠症状だけではなく、昼間の眠気や夕方の様子、手足の動きなどこまめに観察することが診断には大事なのだ。

 また、薬物療法だけで睡眠障害を解決することは難しい。質の良い睡眠は適度な疲労を伴う活発な日常生活があって初めて得られるからだ。認知症といえどもその基本原則は変わらない。危険防止や徘徊を防ぐために目配りするのも大事だが、できる限り外出させて散歩や運動、日光浴の機会を作ることも長い目で見れば介護負担を減らすことに通じる。レクリエーションなどの日中の活動を通じて生活のリズムを整えることが目的のはずのデイケアで、手間がかからないからと長い昼寝をさせる施設もあるやに聞く。それでは結果的に家族に夜間の介護負担を押しつけていることと同じである。本末転倒も甚だしく、あってはならないことである。

つづく

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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。