第27回 在宅介護を破綻させる認知症の睡眠障害
つい先日だが、日本国内で費やされる認知症の社会的費用(医療・介護費用)に関する厚生労働省研究班の試算が出た。認知症患者は500万人を数え、社会的費用の総額は14.5兆円にも達するという。現時点では特効的な治療法もないため医療費は1.9兆円に留まり、残る12兆円超の大部分が介護費用で占められている。
介護費用の半分6.2兆円が「家族による介護コスト」だそうだ。認知症に罹った家族の入浴やトイレ介助などを介護保険サービスの費用に換算するとそのような高額になるとのこと。膨大な労働力が介護に吸い取られていることが分かる。認知症高齢者の介護は生産性に乏しく、そこから生まれる付加価値も期待しにくい。少子高齢化が進行してただでさえ労働人口が減少している日本にとって、今後も増大する一方の介護負担は国の浮沈に関わる大問題である。
私も以前、厚生労働省が実施した認知症の介護負担に関する調査研究に関わったことがある。そのときのテーマの1つが在宅介護を困難にさせる要因分析であった。私のような睡眠研究を専門にする者がそのような調査になぜ招聘されたかというと、在宅での介護を困難にさせる原因の1つが昼夜逆転などの睡眠問題ではないかと疑われていたからである。結果はその通りであった。
認知症の「中核症状」は物忘れ(記憶障害)、見当識障害(人、時間、場所が分からなくなる)、そして高度の推論や判断ができなくなるなどの高次脳機能の障害である。しかし中核症状は認知症の問題のごく一部を占めるに過ぎない。認知症では「辺縁症状」と呼ばれるさまざまな精神症状や異常行動が頻繁に認められる。辺縁とは中核でないという程度の意味合いであるが、以下に説明するように介護の現場では辺縁どころか主役である。しかもダースベイダーなみの強力な悪役である。
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