第75回 朝ごはんで体内時計をリセットのウソ

 体内時計には環境光でガッチリ調節される親時計(脳の視交叉上核)と、親時計から指令を受けて間接的に24時間に同調している子時計がある。この子時計が別名、末梢時計と呼ばれている。

 末梢時計は皮膚や内臓、免疫細胞など体内の大部分の細胞で働いており、様々な生体機能のリズムを作り出している。食事は少なくとも一部の末梢時計の時刻調節をする作用を持っているのである。特に腸や肝臓など消化器系の細胞は食事の影響を受けやすいとされている。

体内時計には「親時計」と「子時計」があり、食事や運動などの生活習慣は子時計には作用する。(画像提供:三島和夫)
体内時計には「親時計」と「子時計」があり、食事や運動などの生活習慣は子時計には作用する。(画像提供:三島和夫)
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 これらの知見を踏まえて、私が理解する「早寝・早起き・朝ごはんで睡眠リズムを整えよう!」を効率的に実施するコツはこうだ。

「早起き」しても薄暗いリビングでボーッとしていてはダメ。起きたらカーテンを全開にして朝日を浴びる。そして夜型光である夜間照明は控えめにすることが「早寝」につながる。

 夜型生活をしている子どもは食欲がなくて朝ごはんを抜かしがち。即効性はなくても、朝ごはんには胃腸の活動リズムを徐々に朝型生活に合わせてくれる効果がある。最初は軽食でも良いので学校に行く前に何か口に入れよう。徐々に朝から食欲が湧くようになるだろう。

 朝ごはんには血糖を上げて意欲や集中力、持久力を高める効果もある。活発に運動もできるようになるし、居眠りせずに集中して授業を受けられる。ほどよい疲労と眠気が蓄えられ睡眠の質の改善につながるだろう。これらは体内時計を介した作用ではないが、結果的に早寝・早起きを後押しする。

 食事(カロリー、栄養素)の摂取が体内時計にどのような影響を及ぼすか、また逆に、体内時計の影響で同じ食事でも影響がどのように異なるかなど、栄養学を時間生物学的な視点から研究する学問を「時間栄養学」と呼ぶ。

 脂肪の代謝に関連するある種の時計遺伝子の活動に昼夜差があるために、「昼間よりも夜間に脂肪を摂取すると肥満になりやすい」などは時間栄養学の成果の一つである。「朝ごはんが本当に体内時計を動かすのか」という今回の疑問は時間栄養学的にはとても重要なテーマなのである。

 文部科学省の官僚と「早寝早起き朝ごはん」国民運動について話す機会があり、今回の話題を持ち出したのだが、食いついてきたのは「夜中の脂肪はヤバイ」という部分だけだったのは実に不本意であった。夜中に焼き肉を食べながら話していたのでやむを得ないのだが。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。