第93回 酒も飲まずに酔っ払い状態!? 誰しも簡単に陥る“危険運転”のワナ

 その危険運転は夜間に起こる。それも明け方などではなく終電くらいの時間帯でも起こる。少し古くなるが、1997年にオーストラリアの研究者らが「ネイチャー」に発表したユニークな(?)研究がその問題を端的に指摘している。

 彼らは、健康な被験者に2度にわたって参加してもらい、片方の試験では朝8時に起床してから翌朝の昼まで徹夜させ、30分ごとに動く物体をどれだけ正確に追跡できるか測定する技能テストを行った。このテストによって注意力や反射能力などの運転能力にも直結するパフォーマンスの低下が分かる。

 もう片方の試験では、やはり朝8時から30分ごとに10〜15gのアルコール(ワインならグラス1杯、日本酒ならお猪口3〜4杯程度)を飲みながら同じテストを行い、血中アルコール濃度の上昇とパフォーマンスの低下との関係を調べた。

 その結果、先の徹夜試験では起床してから12時間目くらいまで(つまり夕方過ぎくらいまで)はパフォーマンスが下がらなかったが、それ以降は直線的に低下し、起床から17時間を超えると(7時起床の場合、夜0時以降には)オーストラリアの飲酒運転の基準である血中アルコール濃度0.05%かそれ以上の酩酊レベルまでパフォーマンスが低下することが分かったのである。

 ちなみに、日本では酒気帯び運転の基準はもっと厳しく、血中アルコール濃度0.03%以上で反則点数が13点、0.05%で25点である。ある別の研究によると、血中アルコール濃度が0.02%程度でも反応時間や追跡能力が低下し、0.03%ではハンドル操作が稚拙になり、0.04%で視線の固定が困難になる。終電時刻あたりに運転をするということは、このような酔っ払い運転をしているのと同じ危険な状態なのである。

 自動運転車の開発が進んでいるが、本当にAIに運転を任せて良いのか熱い論議が交わされている。米国では試験中の自動運転車による初の死亡事故も起こった。しかし、少なくとも夜間の運転に関しては人の方が勝っているとは思えない。ちなみに、先の実験では「睡眠不足がない」健康な人でも0時過ぎにはこのような状態になった。睡眠不足があれば、さらに早い時間帯から「酔っ払ったような」運転になるだろう。自動運転を一番必要としているのは寝不足大国ニッポンかも。

つづく

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三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。