第126回 「夜型は不健康」の真相
さて、朝型・夜型と健康リスクに関する研究の大部分は、「夜型生活」に関するものである。つまり、調査対象者の実生活上の就床時刻や起床時刻を元に朝型・夜型を判定している。
夜型生活者の多くは、就床(入眠)時刻は朝型生活者に比べて大幅に遅れる一方、出勤や家族の朝食作りなどの家事があるため起床時刻には大きな違いは無い。そのせいで夜型生活者の睡眠時間は朝型生活者に比べて一般的にかなり短い。寝つきが悪くて寝酒をする人もいる。平日の睡眠不足から休日は寝だめが多く、運動もサボりがちである。これら一つ一つが健康リスクを高めることは有名なので改めて解説の必要もないだろう。
そのため、朝型と夜型生活者間で生活習慣病や抑うつなどの健康リスクを比較する場合には、これら睡眠時間、飲酒、運動などの交絡因子(結果に影響を及ぼし得る要因)の影響も勘案して「夜型生活」そのものの影響を分析する必要がある。実際、交絡因子を調整して解析すると、健康リスクに主に関連するのは睡眠時間、飲酒、運動など交絡因子の方であり、「夜型生活」であること自体の影響は限定的であることが分かる。つまり、遅く寝たり遅く起きたりすることそれ自体が問題なのではなく、夜更かし生活に伴って生じることの多い睡眠不足や不活発なライフスタイルの影響がかなり大きいと言えるだろう。
この結果を深読みすると、「夜型生活」であっても出勤や家事などの心配が無く、遅く寝た分だけ寝坊ができれば睡眠不足から解放され、健康リスクは相当程度解消されるのだろうか? ここからは筆者の推測だが、食生活や飲酒、運動などに留意すれば、生活習慣病などの疾患のリスクはさほど高まらないのではなかろうか。残念ながらスケジュールに追い立てられることの多い現代社会ではそれを実証した研究はないのだが。
ただし、過去の多くの研究結果によれば、うつ病については「夜型生活」を放置しない方がよさそうである。ごく最近も、大規模な遺伝研究コホート(遺伝子を提供するボランティア集団)を用いた研究で、「夜型生活」がうつ病と関連すること、「朝型生活」に移行することうつ病リスクが低下することを示唆するデータが報告された。次回は、「夜型生活」とうつとの関係、その対処法についてもう少し深掘りをしてご紹介する。
つづく
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(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま かずお)
1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。
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