同じように、不完全な目覚めが原因で生じる睡眠障害には、「錯乱性覚醒」と「睡眠時驚愕症(夜驚と呼ばれることもある)」がある。

 錯乱性覚醒は起床時に周囲の状況がすぐに飲み込めず精神的に混乱するのが特徴で、困惑状態が1時間も続くことがある。睡眠時驚愕症はやはり不完全な覚醒のために恐怖感から絶叫して暴れる、発汗、頻脈などパニック様の行動が見られる。睡眠時驚愕症の持続時間は数分から10分程度なのだが、毎晩のように出現する子どもさんもおり、なだめても、あやしても全く効果が無く泣き叫ぶため、パパママともに不安と疲労から憔悴してしまうこともある。

 睡眠時遊行症、錯乱性覚醒、睡眠時驚愕症は共通してパチッと目覚める機能に問題があることから、3つ合わせて「覚醒障害」と呼ぶ。以前は文字通り睡眠・覚醒移行障害と呼ばれた時期もあった。

 さて、「夢遊病は子どもの病気」と認識している方も多いのではないだろうか。確かに覚醒障害は子ども時代に多いのは事実である。錯乱性覚醒や睡眠時遊行症は10歳以下の子どもの15%以上、睡眠時驚愕症は5%前後に認められるなど頻度は高いが、幸いなことに大部分のケースでは成長とともに自然に消退していく。ただし、「子どもの病気」は言い過ぎで、実は覚醒障害は成人になっても持続する人がそれなりにいる。

 大人の覚醒障害について興味深い調査結果が報告されている。この調査は、英国に在住の成人(15歳以上)、約5000人を対象として睡眠問題とメンタルヘルスについて電話インタビューしたもので、規模も大きく、調査精度も高く、信頼できる調査と言える。その結果、錯乱性覚醒、睡眠時遊行症、睡眠時驚愕症ともに、15~24歳ではそれぞれ8.9%、4.9%、2.6%が経験があると回答している。その頻度は年齢とともに減少するのだが、25~44歳の若年~中年層でもそれぞれ4.8%、2.1%、2.5%に見られ、45~64歳の壮年~初老期でもそれぞれ2%前後で残存していたというのである。

 最も興味深いのは、これら覚醒障害が残存している人では適応障害や双極性障害(躁うつ病)などメンタルヘルス問題を抱えている例が多く、双極性障害に至っては覚醒障害が無い人より13倍も罹りやすいという結果が出ている。双極性障害では睡眠リズムの乱れや日中の眠気など睡眠問題が多いことが以前から知られていたが(第88回「睡眠リズムの乱れは心の乱れ、躁うつ病では顕著」)、その詳しい原因は分かっていない。睡眠からスッキリと目覚める力が弱いことがその一因なのかもしれない。

 いずれにせよ、夜中に知らぬ間に行動している、朝起きてもボンヤリして頭が混乱してしまう、などのお悩みがある時は睡眠専門医に相談してみることをお勧めしたい。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

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