第73回 夜に増える転倒にご注意を、高齢者の1割が骨折

 例えば、低血圧。

 昼間に比べて夜間は血圧が低い。特に横臥していると血圧は低くなり、トイレに行きたくなって起き上がっても血圧がすぐには高まらないため、立ちくらみ(起立性低血圧)で転倒してしまうことがある。高血圧の治療薬(血圧降下剤)を服用していると転倒リスクがさらに高まることが調査から明らかにされている。夜間に目覚めてトイレに行くときには、ゆっくりと身を起こし、めまい感やふらつきがないことを確認してから、壁などに手を添えて歩き始めるなどの工夫をすると安心である。

 薬剤の影響も見逃せない。

 服用している薬剤数と転倒リスクが比例するという報告もある。糖尿病の治療薬(血糖降下剤)が効きすぎて夜間に低血糖気味になった、アレルギー治療薬(抗ヒスタミン薬)で眠気とふらつきが出た、胃炎の治療薬(H2ブロッカー)で夜間にもうろうとした、など転倒につながる副作用が増えるためである。

 とりわけ、睡眠薬を服用している高齢者はとても多い。残念ながら睡眠薬もまた転倒した高齢者が服用していた薬剤としてたえず上位にランキングされる。特にベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬が転倒を引き起こしやすい。このベンゾジアゼピン系は日本で使われている睡眠薬の7割以上を占めている。

 睡眠薬と聞くと、眠気が強くもうろうとして転ぶ様子を思い浮かべるかもしれないが、そのようなケースは思いのほか少ない。最近の睡眠薬は作用時間(眠気が持続する時間)が短いものが多く、トイレに行く頃には眠気がかなり醒めてしまっている。そのため、むしろ睡眠薬による眠気が切れかけた頃に目を覚ましてトイレに向かっている途中で転ぶことが多い。

 睡眠薬の作用時間を過ぎているのにナゼ転びやすいのだろうか。それは眠気が消えた後も、筋肉を弛緩させる作用や体の平衡機能を抑制する作用は続いているためである。つまり、医師が説明する「睡眠薬の効果が長い、短い」とは催眠作用の持続時間のことであり、その他の作用(副作用にもなる)の持続時間とは異なるのである。

 そのため、眠気がなくなっても、廊下を曲がる際にふらつく、筋肉が弛緩しているためよろめいた時に踏ん張りがきかない、つま先が上がらず段差に引っかかりやすいなど、転倒しやすい症状が出てしまう。「睡眠薬の効果が切れた」と安心してはいけないのである。

 睡眠薬による高齢者の転倒は以前から問題視されていて、最近開発されたいくつかの新薬は服用後のふらつきがかなり抑えられている。今後は睡眠薬による転倒が少なくなると期待されている。

 では、睡眠薬をやめれば転倒は少なくなるのだろうか。どうやらそうは問屋が卸さないらしい。不眠を治療しないでいると転倒の危険がむしろ高まるらしいのだ。

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