第103回 長く眠る人の死亡リスクが高いという謎

 そのため、長時間睡眠がさまざまな健康リスクに関連しているように見えるのは、睡眠それ自体ではなく、むしろ長時間睡眠に陥るその他の要因との関連であって、長睡眠時間はその「影」を見ているに過ぎないのではないかと指摘する研究者もいる。また、先の各種疾患がしっかりと発症する前に、長時間睡眠が“前駆症状”として出現している可能性もある。例えば、うつ病では不眠のほか過眠(強い眠気)を伴うことがあり、長時間睡眠はうつ病発症に先立つ過眠症状を反映している可能性もある。

 睡眠時間(特に長時間睡眠)と健康に関するデータを紹介するときに「・・・の罹患リスクを高める」と書かずに「長睡眠時間が・・・の罹患リスクと関連する」と回りくどい言い方になるのはこのような理由からである。

 とはいえ、過去のコホート研究でも、経済状況(年収)や運動習慣などに関する質問や、うつ状態の簡易スクリーニングなどを行うことで、真に睡眠時間と罹患リスクとの間に関連があるのか、見極める努力が行われている。それでも長時間睡眠と健康リスクとの「関連」を認めたとする研究報告が続いているので私も個人的には信じているのだが、両者の「因果関係」を明らかにする実証的な研究は今後の課題である。

 その際に鍵となるのは、睡眠時間の客観的な評価だろう。これまでの大型コホート調査ではコストや実施可能性の観点から主観的な睡眠時間を聴き取っているものが大部分である。「睡眠時間」の中には寝つきにかかる時間や中途覚醒時間はもちろんのこと、読書、TV視聴、性生活、ごろ寝なども含まれている、つまり単に「寝床にいる時間」も「睡眠時間」に計上されているのかもしれない。

 第91回「実現間近!?AIによる睡眠指導に抱く一抹の危惧」でも書いたが、これからはウエアラブルデバイスで簡便に脳波が持続測定できる時代に入る。睡眠と健康に関する疫学調査も更なる高いステージにステップアップするだろう。長時間睡眠者は平均的な睡眠時間者と比較して、深いノンレム睡眠の長さは変わりなく、伸びるのは浅いノンレム睡眠やレム睡眠であり、むしろ寝つきに時間を要したり、中途覚醒が多いなど睡眠の効率が悪いという研究結果もある。仮に客観的な長時間睡眠が健康リスクと真に因果関係があるとすれば、ウエアラブルデバイスを用いた長期観察研究で健康長寿に資する正しい睡眠法が明らかになるかもしれない。

つづく

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三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。