第92回 寝不足でキレる! その「脳内変化」が分かってきた
一方で、もともとキレやすい性格ではないのに、何らかの原因で後天的にそうなることがある。高齢者がその代表である。孔子によれば「六十にして耳順(なら)う(六十才で人のことばに素直に耳を傾けることができるようになる)」そうだが、なかなか理想通りにはいかない。実直に勤め上げた人が、退職後徐々に怒りっぽくなり、時事問題にブツブツ文句を言っていた間はよかったが、しまいには家族、友人、隣人に対しても些細なことで激怒するようになった、などという相談を受けることがある。
孤独や役割の喪失、貧困など高齢者がキレる事情はさまざまあるが、前頭葉の機能低下が下地として隠れていることがある。前頭葉は大脳の前部(額の後ろ側)にあり、物事に対する意欲や注意、記憶などを司る。大脳の奥深くにあり情動のコントロールを司る大脳辺縁系とも前頭葉は密接に結びついており、心を揺るがす出来事に遭遇した際に喜怒哀楽が暴走しないよう適度にブレーキを踏んで情動(感情)を調整する役割も担っている。
歳とともに怒りっぽくなるご老人を見かけることがあるが、前頭葉機能が低下して感情の大きな振れを抑えきれないためだというわけだ。時にはそのような性格の変化が認知症の初期症状になる場合もある。特に前頭葉が主に障害される前頭側頭型認知症(ピック病)では、物忘れではなく些細なことでキレやすくなったなどの性格変化で最初に気づかれることも少なくない。
さて、ようやく本題に入る。睡眠不足の時にいらいらしてキレやすくなるという経験は誰しも持っていると思うが、その脳内メカニズムが最近の研究から分かってきた。
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