第24回 朝型勤務がダメな理由

 朝型勤務が徹底され、かつ残業が減れば、たしかに会社の電力消費量を抑える効果は期待できるだろう。ある大手企業では朝型勤務に夜間残業と同じ割増賃金を乗せるというインセンティブをつけても総人件費を減らすこともできたそうである。短期的な経費節減にはつながりそうである。しかし、会社の近くのスタバが残業持ち帰りの社員で満席になったなどという話もある。本当に仕事を早めに切り上げて充実ライフを過ごすことのできる労働者がどれだけ増えるだろうか。

 労働者の長時間労働問題は総業務量や生産性の問題であり、勤務時間の時間的な分配調整でお茶を濁せる類いのものではないと思うのだが。朝型勤務を推進する企業が掲げる「夜型の残業体質の転換」というスローガンは聞こえは良いものの、その効果についてはかなり眉唾であり、リスクについては論議を尽くしていない。拙速の印象が拭いきれない。

 一方で、朝型勤務推進派の主張にも傾聴すべきものがある。残業イコール仕事を頑張っている人というステレオタイプな考え方からの脱却である。終業時間を設定するという考え方はとかく長時間労働や寝不足自慢をする傾向がある日本人にとっては一石を投じる効果がある。だからといって、終業を早くした分早起きして仕事を始めろという発想は楽観的に過ぎる。その理由は今回ご説明した通りである。

 最近流行のビジネス用語「ダイバーシティ」とは多様な人材を積極的に活用しようという考え方らしいが、労働者のパフォーマンスを最適化する勤務時間についても是非多様性を認めてほしい。睡眠やクロノタイプも個性の1つなのだから。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。