深夜帯に居眠り運転が多いのはよく理解できる。では二つ目の午後のピークはナゼ生じるのか? このコラムを愛読していただいている方はすぐにピンとくるだろう。そう、午後2時〜4時は眠気が強くなる時間帯として知られているのだ。

 午後2時〜4時はシエスタの時間帯である。日本では昼寝といえばお昼休み中の短時間の仮眠をイメージすることが多いが、第63回「シエスタとるなら昼寝は短めに」でも解説したように本場スペインのシエスタでは午後1時頃から2、3時間ほど長めの休憩を取ることが多い。これは生理的にも理に適っていて、人の眠気の強さの日内変動を特殊な方法で測定すると、深夜帯の大きな眠気の高まりとともに、午後2時〜4時にかけて眠気の第二のピークが訪れるのである(第21回 「「睡眠禁止ゾーン」って何?」)。シエスタはまさにその眠気を合理的に解消するスキルであると言える。交通量が比較的少なくなる午後の時間帯に居眠り運転事故が多くなるのも、この第二の眠気のピークに原因の一部があると言われている。

 車社会の米国では、以前から眠気による交通事故が日本以上に問題視されており、眠気をもたらす睡眠障害とその治療について幾つもの取り組みが行われている。その中から2つほど話題を提供しよう。

 まず、一部の睡眠薬を服用した翌朝に交通事故リスクが高まることが明らかになり、起床時刻まで4時間を切ったら服用しないように米国食品医薬品局(FDA)から注意勧告が出された。その睡眠薬は作用時間が短い、つまり翌朝への影響が少ないと考えられていたため、夜中に目が覚めたときに追加服用している人も多く、私たち専門家にとっても意外な印象を受けた。血中濃度がかなり低くなっても運転技能など高度な作業能力を低下させる影響は残存するのだろう。

 第93回「酒も飲まずに酔っ払い状態!? 誰しも簡単に陥る“危険運転”のワナ」でもご紹介したが、日本でも2013年に自動車運転処罰法(正式名称「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」)が改正され、睡眠薬など眠気の出る薬を服用し、その危険性を十分に知っていながら対策を取らずに居眠り運転で人身事故を起こした場合、運転者は死亡事故で最高懲役15年、負傷事故で最高懲役12年の刑罰が科せられる可能性がある。不眠症治療のために睡眠薬を服用しなくてはならない人、運転もしなくてはならない人は、正しい服用法を心がけましょう。

 眠気と運転事故に関するもう一つの話題として、米国では交代勤務者の夜勤明けの眠気に対する治療薬が認可された。夜勤明けはただでさえ眠気があり事故リスクが高いが、特に体質的に夜勤に弱く、強い眠気や不眠、体調不良を生じやすい人は(交代勤務睡眠障害と呼ばれる)、居眠り運転しやすい夜勤明けの帰宅時が要注意である。このような夜勤問題のハイリスク者に対して、もともと過眠症の治療に使用されていた薬物(覚醒刺激薬)を使えることになったのである。

 過眠症とは、睡眠不足や夜間睡眠の異常が無いのに日中に極めて強い眠気が生じる睡眠障害の一種で、覚醒刺激薬はその名の通り強い覚醒作用を有する。夜勤時の眠気は誰にでも生じ得る生体反応で、疾患とすべきではないという反対意見もある中でも承認されたという。それだけ夜勤明けの居眠り運転事故に対する危機感が強いのだろう。

 日本ではさまざまな工夫や身の回り品で対処するしかない。居眠り運転を防止する方法については、仮眠やカフェインなどを活用する方法がある。第31回「夜勤補講:賢い眠気対処法」でも詳しく解説したので参考にしてほしい。不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害があると居眠り運転のリスクが大幅に増加するので、特に職業ドライバーの方は検診をしっかりと受けていただきたい。そして何よりも、居眠り運転の最大の原因である睡眠不足のままハンドルを握らないことが一番の対策であることを強調しておきたい。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

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