第11回 睡眠薬の効果は4階建て ー偽薬、侮り難しー

 1つの睡眠薬が患者の手に届くまでにはこのような厳しい戦いを勝ち抜く必要がある。効果量が比較的小さい新薬の場合、偽薬との差を明らかにするために治験に参加してくれる患者数を増やすなどかなり苦労する。また効果量が大きいだけではダメで、副作用が許容できる程度に収まる必要もある。メリット(エフェクト)がデメリット(リスク)を十分に上回っている必要があるのだ。

「効果量が小さい薬物を服用する意味はあるのか?」という質問を受けることがある。悩ましい問題である。たとえ効果量は小さくても4階まで合わせれば十分な治療効果を発揮することが大部分だ。皮肉な言い方になるが、服用しなければプラセボ効果も得られない。「全部足して治ればよい」少し乱暴なようだが、先の質問にはそのようにお答えすることにしている。

「偽薬効果が大きい病気であれば偽薬を服用したい、副作用も少ないだろうし」そのように考える方もおられるだろう。しかし残念ながら偽薬と分かって服用すればプラセボ効果は得られないというジレンマがある。患者に分からないように主治医が偽薬を処方できれば別だが、倫理面の問題もあり、医療現場では通常行われていない。

(イラスト:三島由美子)
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 プラセボ効果はイリュージョンではない。新薬への期待やライフスタイルの改善を通じて患者の自然治癒力が引き出されているのだ。普段の診療でもプラセボ効果は存在する。薬の作用や副作用を丁寧に説明して患者の信頼を勝ち取れば、薬の効果は倍増する。

 無愛想で患者に優しくない医者が処方した睡眠薬と、患者の信頼の厚い医者が処方した偽薬、かなり良い勝負になるかもしれない。臨床試験を行えば話題になることは間違いないが、患者も医者も試験に参加したがらないだろう。

 睡眠薬を処方しても寝つきが22分しか縮まらない……そのようなことにならないよう丁寧な診療を心がけたいものである。

つづく

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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。