第135回 年を取ってからの長すぎる昼寝は認知症の兆候の可能性

(イラスト:三島由美子)
(イラスト:三島由美子)
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 私の住む北国でもすっかり春めいて、日中はぽかぽかと暖かく、休日にはついついうたた寝をしてしまいそうな、そんな「春眠暁を覚えず」の季節を迎えた。

 春に限らず、睡眠不足の人が多い現代社会では昼寝(居眠り、うたた寝)は世代を問わず見られるが、もともと昼寝は子どもと高齢者に見られる“生理的”な睡眠現象であると考えられていた。特に病的とは言えない、正常な発達や加齢に伴って生じる睡眠習慣ということである。一方、睡眠不足による眠気は生理的な(正常な)睡眠時間が確保できない結果生じる眠気なので、“非生理的”な眠気だと言える。

 ところが、ここ数年間、高齢者の昼寝は脳病変の変化を表す早期兆候、言い換えれば“非生理的”な眠気であることを示す研究が立て続けに報告されている。今回はそれをご紹介しよう。

 高齢者は、日中に忙しく仕事をしている人は別にして、昼寝習慣を持っている人が多い。年を取った人間がうたた寝をするのは当たり前のように感じるかもしれないが、実は睡眠科学的には不思議な現象である。というのも、加齢とともに夜間の睡眠時間は短くなり、その理由として身体活動量や基礎代謝量の低下などから休養としての必要睡眠時間(疲労回復に最低限必要な睡眠時間)は短縮すると考えられているからだ。しかもリタイア世代では通勤などが無く、寝室にいる時間を十分確保できている。したがって、昼間にあえて睡眠を補給する(寝だめをする)必要がないはずなのである。

「高齢者は体力が無く疲れやすいから眠くなるのでは?」。もっともらしく聞こえても、これも科学的には説明がつかない。疲労回復に長めの睡眠時間が必要であれば加齢とともに生理的な睡眠時間は延びるはずだが、先述のように健康な高齢者では自然に入眠し、覚醒した場合の睡眠時間は若者よりも短いからだ。

 そのため、高齢者で昼寝が増えるのは「睡眠の質が低下するため」という説明がよく行われてきた。高齢者は持病を持っていることが多く、頻尿や痛み、痒みなどで深い睡眠が減ったり、夜間の覚醒などで細切れ睡眠になったりして疲労が取りきれないため、日中に眠気が強くなっても仕方が無いというわけだ。しかし、夜間睡眠に目立った異常が無くても日中の眠気が強く、長めの昼寝が必要になる高齢者も少なくない。

 第128回「「起きるか眠るか」のせめぎ合い、どのように軍配が上がる?」でも紹介したように、私たちの睡眠と覚醒が24時間リズムで交代して出現するのは、脳内の覚醒を促す神経活動と睡眠を促す神経活動のバランスによって保たれているからだ。日中には覚醒系神経の活動が盛んであるため、睡眠不足でもない限り、昼間に眠気で困ることは無い。高齢者も例外ではないはずなのだ。ところが、一部の高齢者ではこの覚醒系神経の変性(死滅)が生前から生じていることが、ここ最近のハーバード大学やカリフォルニア大学などによる一連の研究で明らかになった。

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