第23回 断眠の世界記録 ラットvs.人間

 人でも断眠を続けると同じように深刻な事態が起こるのであろうか。人を何週間も完全に断眠するような研究を行うことは倫理上も困難だが、軍隊など極度の睡眠不足が生じる特殊状況下では、やはり免疫細胞の活性低下や抗体の減少など免疫力が広範に低下すると報告されている。また、より短期間の断眠や睡眠不足でも何度も繰り返されることで悪影響が生じることも分かってきた。

 このような断眠がもたらす危険性がまだよく知られていなかった当時、連続覚醒時間の世界記録にチャレンジした猛者が何人かいた。現在であれば研究倫理委員会からクレームがついて研究計画は承認されないかもしれない。睡眠科学の分野で最も有名な記録は、サンディエゴの高校生ランディ・ガードナーが樹立した264時間(11日間)である。寿命が約2年のラットと単純に比較できないが、これも大記録である。これより長い断眠記録もあるようだが、ランディ青年の挑戦には睡眠研究で有名なスタンフォード大学のウィリアム・デメント教授が立ち会っており、信憑性が高いとされている。

 11日間にランディ青年の身に何が起こったのであろうか。最初の2日は眠気と倦怠感、4日目には自分が有名プロスポーツ選手であるという誇大妄想、6日目には幻覚、9日目には視力低下や被害妄想、最終日あたりには極度の記憶障害などが生じたが、身体面(首から下)には大きな問題が生じなかったという。

 11日間の断眠を達成した後、ランディ青年は一体どうなってしまったのか。その後も幻覚に悩まされた? 記憶障害の後遺症が残った? はたまた不眠症に陥った? いえいえ、彼は断眠終了後にたった(?)15時間ほど爆睡した後に自然に覚醒し、精神面でもなんら後遺症を残さなかったのである。

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