第23回 断眠の世界記録 ラットvs.人間
一般の方に睡眠の重要性についてお話をすると、「最近、寝不足のため体調が悪いです。何か対処法はありますか?」という質問を良く受ける。だからしっかり眠りましょうというお話を先ほどしたのですが……。
患者さんに睡眠障害のお話をすると、「眠らなくても良ければ苦労しないのですけどね」とぼやきが出る。ま、確かに……でも、それ無理ですから……。
そして医学生からは「睡眠の話も面白いのですが、あまり眠らずに済むコツみたいなのはありますか? 試験前なんか徹夜でボーッとしちゃって」なんて質問される。君は医者になった時、患者さんにも同じことを言えるのか?……。
どうやら、人生にとって眠りは厄介者、無駄な時間と考えている人が少なくないらしい。
確かに睡眠時間が人生の中で占める割合は大きい。それを安らぎの時間と感じるか、苦しいと感じるか、もったいないと感じるかは人によって異なるだろう。連載の第2回「隣の眠りは長く見える」でも紹介したが、眠らずにすむ無眠人(スリープレス)を扱った近未来SF『ベガーズ・イン・スペイン』では、24時間丸々使える新人類は羨望の的、ついには憎悪の対象になってしまう。
もちろん、睡眠研究者にとっても、なぜ生物は眠るのか、眠らないとどうなるのかという疑問は研究黎明期からの大命題であった。たとえば今から100年以上も前に、日本の睡眠研究の泰斗である石森國臣博士は長期間断眠した犬の脳脊髄液を別の犬の脳内に注入すると睡眠が誘発されることを発見した。残念ながら和文誌に掲載したため国際的には認知されなかったが、生物を眠りにいざなう何らかの化学的変化が脳内で生じていることを示唆した先駆的な成果であった。その後も、睡眠物質に関する研究分野で日本は世界をリードし、ウリジン、酸化型グルタチオンなどの睡眠誘発物質の発見、プロスタグランジンによる睡眠調節メカニズムの解明、ナルコレプシー(過眠症)の原因物質オレキシンの発見へとつながる。

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