第91回 実現間近!?AIによる睡眠指導に抱く一抹の危惧
睡眠判定のできるウエアラブルデバイスの多くもBluetooth(ブルートゥース)やFelica(フェリカ)などの無線通信によってスマホやPCにデータを送ることができ、これらのデータを解析することで、ユーザーの日々の睡眠状態を客観的に評価することができる。睡眠だけではなく、刻々と変わる自律神経(交感神経、副交感神経)、注意力や集中度、体のバランス(平衡機能)などのさまざまな心身機能の日内変動も見える化できる。
ウエアラブルデバイスを使って健康管理をするという試みは10年以上前からあった。私の所には7、8年ほど前にかなりの問い合わせが集中したと記憶しているが、一時よりもやや沈静化していた。というのもこの分野に参入した多くの企業は商業的にあまり大きな成功を収めることができなかったためである。さまざまな理由があるが、「飽きてしまう」ユーザーが多いのが大きな弱点であると個人的には感じている。デバイスの販売ではなく、企業が用意したプラットフォーム(サイト)上で解析と見える化システムを活用してもらうことでその使用料を課金するビジネスモデルの場合には、とりわけ長期ユーザーが少ないことは致命的である。
スマホアプリに表示される自分の睡眠パターンを当初は興味津々で眺めていた人も、1週間もすれば新味がなくなりチェックしなくなる。特に快眠できている人であればなおさらだ。睡眠で困っている人の場合でも、適切なコーチングが戻されなければやはり止めてしまう。現在の技術ではユーザーによって異なる多様な睡眠問題に臨機応変に対応し、満足度の高いコーチングができるアプリを作成するのは大変である。ここら辺の苦労話は第76回「不眠症に効果アリ? 睡眠アプリのヒミツとは」でもご紹介した。
実際、ファッショナブルなウエアラブルデバイスで一躍人気となったJawboneですら、昨年7月、経営が思わしくなく破産手続きを開始したと伝えられた。鳴り物入りで登場したApple Watchも当初期待されたほど普及していないようである。そのほか注目されていたウエアラブルデバイス企業の多くが伸び悩んでいた。
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