第22回 寝てはいけない時間に眠る人々、その傾向と対策
前回、眠ろうとしてもなかなか眠りにくい「睡眠禁止ゾーン」についてご紹介した。体内時計の指令で夕方過ぎに覚醒力が高まり、日中に溜まった眠気を一時的に打ち消してくれることで生まれるゴールデンタイム。普段0時頃に寝つく人であれば20時〜22時頃、まさにアフターファイブをエンジョイしている時間帯である。ところが、せっかくのゴールデンタイムに寝床に潜り込んだ結果、質の悪い眠りに陥って損をしている人々がいる。本日は代表的な3つのタイプをご紹介しよう。
まず1番手はおなじみの不眠症の人である。夕食が終わる頃にはまぶたが重い、TVを見ても集中できない、だるくて横になりたいなど早寝の理由はさまざまである。「睡眠禁止ゾーン」ど真ん中の20時過ぎに睡眠薬を服用して就床してしまう人も少なくない。
「睡眠禁止ゾーン」で就床するのは実に効率が悪い寝方である。寝つきに時間がかかり、睡眠薬も効きにくい。たとえ入眠できても睡眠の持続性が悪いので短時間で目が覚める。それも道理で、この時間帯ではまだ脳温も高く交感神経優位であるため、質の良い睡眠がとれるコンディションが仕上がっていないのである。まぶたが重い、横になりたいのは疲労感のためであり、自然な眠気とは異なるのだ。
実際、臨床研究からも早寝は不眠に対して効果がない、むしろ不眠を悪化させることが明らかになっている。睡眠薬を服用しても「ボーっとした感じ」はあっても眠りに入れない、3、4時間ほどもして薬の作用が薄れてきた頃になってようやく眠りに落ちるなどの訴えをよく聞くが、何のことはない「睡眠禁止ゾーン」のために睡眠薬の効果が打ち消され、生理的な睡眠のプレッシャーが高まる0時過ぎに眠りに入っただけなのだ。
仮に21時頃に寝ついたとしても、早ければ1時間、長くても数時間ほどで目を覚ましてしまう。その後は朝までの長〜い夜をウツラウツラして過ごすことになる。この毎晩経験する「辛い時間」こそが不眠恐怖、寝室恐怖を呼んで慢性不眠症に陥る最大の原因である。そのため、最新の不眠治療法である認知行動療法では「睡眠禁止ゾーン」辺りで早寝をするのを禁じ、むしろ生理的な眠気が十分高まる時刻まで就床を我慢する遅寝を薦めている(参考記事:「目からウロコの不眠症治療法」)。
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