第48回 「悪夢障害」を知っていますか?

 ちなみに自分の悪夢を紹介しろと言われれば、幸いなことに「もの凄く高い竹馬に乗っている夢」くらいしか思い当たらない。小さい頃に竹馬が流行った時期があり、熟達してくると遊び仲間と高さを競うようになった。ついには支柱の上部1/3あたりに足台を固定し、しゃがむようにして乗り回していた。そんな無茶な乗り方をしていれば当然なのだが、転倒して流血したことも二度三度ではきかない。

 それが原体験だと思うのだが、夢では足台がなんと「屋根の上」の高さにあり、最初はなんとか乗り回しているものの、電線に触れないように身をひねった拍子にゆっくりと斜め前に倒れ込み……、といった夢を数年に1回のペースで見る。ところが、確かに「あ、まずい」と焦るのだが現実感に乏しく、また不思議なことに斜め30度あたりで夢が終了するため、朝に目覚めても特段「怖かった」と感じることはない。これは悪夢と呼ぶのだろうか?

 実は、悪夢について調査しようとすると最初にぶち当たるのが悪夢の定義の難しさである。悪夢は血圧や血糖値のように数値で測定することができない。そのため私の夢のように「悪夢」と「不愉快な夢(嫌な夢)」の境界がはっきりしないことも少なくない。先に紹介した悪夢に悩む人のパーセンテージに大きな開きがあるのも調査によって悪夢の定義や不快度(悩み度)の評価方法が異なるためである。

 しかし現実には、繰り返す悪夢で心身の不調を生じ医療機関に相談に来る人がいる。そこで医学的には悪夢を内容で定義するのではなく、その夢によって眠りがどれだけ妨げられるかで判定することに決めてある。悪夢で眠りが妨げられる代表的な睡眠障害の1つに「悪夢障害」がある。

悪夢障害の診断基準

1.中途覚醒(夜間の目覚め)が繰り返しみられ、そのときにかなり不快な夢が思い出せる
2.夢は恐怖や不安、怒り、悲しみ、嫌悪感など不快な感情を伴う
3.目を覚ましてからも悪夢の内容をはっきり思い出せる
4.悪夢で目が覚めた後、再び寝つくのに時間がかかる
5.明け方に悪夢を見る
※1,2,3は必須。4,5はいずれか片方だけでよい
(睡眠障害国際分類の基準を筆者が簡略化した)

 この診断基準のポイントは、「悪夢で目が覚める」こと。患者さん自身が判定しやすいように時間軸を逆転させて「目が覚めたらすぐに悪夢を思い出せる」と定義された。悪夢の内容についての基準はない。不快な感情を伴った夢であれば内容や不快度を問わず中途覚醒の原因と考える。

次ページ:悪夢障害の治療法は?