第71回 妊婦の生活リズムが胎児の成長にとって大切な理由

先の睡眠表。全体を俯瞰してみると。(画像提供:三島和夫)
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 さて、睡眠表を少し遠目に見ていただきたい。生後6週(1.5カ月)から16週(4カ月)頃にかけて、睡眠時間帯が日々少しずつ遅れてゆくことにお気づきだろうか。これは24時間より少し長い体内時計の周期を24時間ぴったりのサイクルに同調(時刻合わせが)できないために生じる現象で、専門用語では「フリーラン」と呼ばれる。第67回「睡眠研究のための“異時間空間”「隔離実験室」」で紹介したように、日本人の体内時計の周期は平均24時間10分である。

 実は早産児の研究などから、妊娠30週頃にはすでに約24時間周期の生体リズム(概日リズム、サーカディアンリズム)を刻む体内時計の基本的な機能を獲得していることが分かっている。ただ、フリーラン以前の不規則な時期も含め、出生4カ月頃まではそれを24時間ジャストに同調させることができない状況が一般的に見られるのである。

 また、睡眠・覚醒リズムの形成と並行して、その他の生体機能のリズムも同じ生後数カ月の間に整えられる。例えば、深部体温リズムは生後1カ月過ぎから、時計ホルモンであるメラトニンやストレス関連ホルモンであるコルチゾールなどの内分泌系のリズムは生後3カ月過ぎまでに明瞭になる。

 以上のように、出生直後には体内時計の働きは不十分だが、生後6カ月ほどかけてフルに作動し始めると考えられている。

 では体内時計がまだ十分に育っていない胎児には生体リズムが全くないのかというとそうではない。胎児は母親の血液から栄養素やホルモン、免疫物質などを受け取っているが、その中に昼夜サイクルを知らせる生体情報が多数含まれている。母体のメラトニンは夜間に集中して分泌され、昼間にはほとんど分泌されないのだが、真っ暗な子宮内にいる胎児も母親の血液中のメラトニン濃度の変動を感知して「今は昼だ、夜だ」と分かるのである。

 このような母親と胎児の間で行われる時刻情報のやり取りの意義について興味深いマウスの実験が行われている。

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