ところでちょうど2年ほど前、筑波大学から「退屈になると眠くなる脳内メカニズム」の一端が解明されたと報告があった。ごく簡単に説明すると、彼らはマウスを使った実験により、大好物やおもちゃなどで気を引いてモチベーション(やる気)を高めると、意欲に関わる「側坐核」という脳部位の活動が変化して覚醒度が高まり、覚醒時間が延び、逆に睡眠時間が減ることを見いだした。

 この研究で明らかになった「やる気や興味、関心が覚醒度を上げる脳内メカニズム」が人でも働いているとすれば、ADHDのように注意が散漫だったり、自閉症スペクトラム障害のように注意や関心が向く領域がごく限られていると、モチベーションが高まる場面が少なく、患児や先のツイッターの主が悩んでいるような強い眠気が出やすいことの説明にもなりそうだ。

 一方で、発達障害の患者でみられる眠気には筑波大学の研究成果だけでは説明できない不思議な特徴が認められることがある。側坐核を介して調節される眠気は、睡眠不足による眠気と同様に、脳波でキャッチできる眠気である。ところが、発達障害の患者の場合には強い「眠気」を訴えているにもかかわらず、脳波を調べると実際には客観的な眠気が認められないという謎の検査結果になることが少なくない。

 もう少し具体的に説明すると、過眠症や睡眠不足であれば、日中に暗室で寝かせるとあっという間に(時には数秒から数十秒で)脳波上の睡眠状態に入る。ところが、発達障害の患者では自覚的には強い眠気があっても、脳波が睡眠状態になるまでにかかる時間は眠気のない健康人と同程度であることが多い。すなわち従来の睡眠科学で定義された「眠気」とは異なるものである可能性がある。

 彼らが感じている眠気とは何か? そもそも「眠気」の定義とは何か? これは睡眠―覚醒現象の本質にも関わる難問であることは間違いない。注意や意欲、意識などさまざまな方面から科学的アプローチが行われつつある研究テーマだが、浅学の私にはこれ以上解説する見識が無いので(ちょっとナイショにしたいこともあるので)、これでひとまず筆を置くことにする。今回のテーマに関連する記事を第34回と第57回で書いたので関心のある方はご一読いただければ幸いである。

第34回「睡眠の定義とは何か?―「脳波睡眠」という考え方」
第57回「眠気の正体」

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

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