眠気に拮抗する覚醒力がなければ昼頃にはすでに疲労感や眠気に悩まされ、夕方には疲労困憊状態となるサラリーマンが続出するだろう。アフターファイブともなればデート中に居眠りをしてビンタを張られる彼氏が街にあふれ、居酒屋は閑古鳥が鳴き、今以上に人口減少と不景気に拍車がかかることになるはずだ。しかし、睡眠禁止ゾーンのおかげで街には昼間以上に元気なサラリーマンやOL、学生諸君が闊歩している。

 睡眠禁止ゾーン以降の展開は急激で、普段の就床時刻の1、2時間前になってから夜間睡眠に直結する強い眠気が一気に出現してくる。脳温は睡眠禁止ゾーン近辺でピークを迎えて覚醒度を支え、その後急降下して眠気の創出に一役買っている。脳温と眠気の関係は「第6回 お風呂で快眠できるワケ」でも詳しく説明したので、ご興味のある方はそちらもどうぞ。ほかにも、この時期には血圧や心拍数の低下、催眠作用のあるメラトニンの分泌開始、覚醒作用のある副腎皮質ホルモンの減少など眠るための準備作業が連動して生じる。

 睡眠禁止ゾーンを維持している「覚醒力」の源は生物時計(視床下部にある視交叉上核)である。それが証拠に、生物時計を壊した動物では睡眠リズムが不規則になるだけではなく1日の総睡眠時間が増加する。同様の現象は視交叉上核の変性が生じる認知症などでも認められる。生物時計が覚醒を促す神経メカニズムも徐々に明らかになってきているが紙幅の関係から詳細は割愛する。

 実はこの睡眠禁止ゾーン、不眠症や認知症の患者さん、施設や病院に入院中の人々、発達障害の子供たちなど多くの人々で睡眠問題を悪化させるトラップになっている。睡眠禁止ゾーンの存在を念頭におけば不眠症状の泥沼から抜け出せることも少なくない。次回は睡眠禁止ゾーンを踏まえた効果的な睡眠習慣についてご紹介する。

つづく

『8時間睡眠のウソ。
日本人の眠り、8つの新常識』

著者:三島和夫、川端裕人

睡眠の都市伝説を打ち破り、大きな反響を呼んだ三島和夫先生の著書。日々のパフォーマンスを向上させたい人はもちろん、子育てから高齢者の認知症のケアまでを網羅した睡眠本の決定版。睡眠に悩むもそうでない方も、本書を読んでぜひ理想の睡眠を手に入れてください。
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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

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