第89回 2重に罪深い「お肌のゴールデンタイム」伝説
怪我をしたときもホルモンは活躍する。細胞の修復を促すコルチゾール(副腎皮質ホルモン)が副腎から多く分泌される。コルチゾールは過剰な免疫反応や炎症も抑える。体を異物から守る免疫が活発になりすぎ、かえって体にダメージを与えるのを防ぐためである。また、グルカゴンと同様に全身の細胞の第一のエネルギ源である糖の産生を促して脳や組織の活動を支える。
これらの例を見ても分かるように、ホルモンの活動は人の行動と密接に関わっている。そのため、ホルモン分泌は我々の活動や休息、1日の時刻とうまく連動する必要があり、ほとんどは睡眠と体内時計の両者の影響を受けている。
とはいえホルモン分泌は「主に睡眠による支配を受けるもの」と「主に体内時計の支配を受けるもの」の大きく2つに分けられる。
「体内時計による支配」を受けるホルモンの代表が、先のコルチゾールや、甲状腺刺激ホルモン 、メラトニンなどである。個別の詳しい説明は割愛するが、これらのホルモンは心身を目覚めさせたり逆に眠気をもたらす作用があるため、昼夜のリズムに合わせて分泌を増減させる必要があったのだろう。
一方、主に「睡眠による支配」を受けるホルモンの代表が、成長ホルモン、乳汁分泌を促すプロラクチン、男性ホルモンであるテストステロンなどである。一般的にこれらのホルモンは時刻とは関係なく、睡眠中に分泌が高まる。普段寝ている時刻でも徹夜をしていると分泌が抑えられるのである。
プロラクチンは乳汁の分泌を促すほか、妊娠中には女性ホルモンの分泌調節に関わって母胎を安定させ、育児期には母性的行動の源となって子供を外敵から守るなどの行動をとらせる。乳幼児の睡眠リズムは不規則で寝起きの時間が昼夜に分散していることを考えると、特定の時刻でプロラクチンの分泌が高まるよりも、睡眠(覚醒)の時間帯と連動していた方が育児や授乳にとって都合がよいだろうな、と連想いただけるのではないだろうか(第71回「妊婦の生活リズムが胎児の成長にとって大切な理由」)。
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