不眠や睡眠不足であれば生活習慣病やうつ病のリスクになるのはイメージしやすいのではないだろうか。実際、短時間睡眠が続いたり睡眠の質が低下したりすると、交感神経系の緊張が高まって血圧や血糖値が高くなる、抑うつやストレス反応が強まる、インスリンの効果が出にくくなって糖代謝が悪くなる、摂食ホルモンが変化して食欲が増す、体の炎症が進むなど、生活習慣病やうつ病の発症に直結する心身機能の変化が比較的短期間に生じることが知られている。

 一方、心地よい昼寝がどのように心や体に悪さをするのか、実はほとんど分かっていない。すぐに思いつくのは、両者の間には相関関係はあっても必ずしも因果関係はないのではないかという疑問である。つまり、風が吹いて桶屋が儲かっても、風と桶との間には直接的な関係は無いのと同様に、昼寝が直接これらの疾患を引き起こすのではなく、疾患に罹りやすい人は何らかの原因で昼寝をしがちなだけかもしれない。

 例えば、認知症が発症する前段階の高齢者ではすでに覚醒を促す脳神経の機能に何らかの異常があるために昼寝が長くなるのかもしれない。また、抑うつ傾向があるがうつ病を発症するに至っていない人は、日中の活発さがすでに失われ、昼休みや特に休日は横臥することが多く、そのまま昼寝をしてしまったのかもしれない。つまり昼寝はこれらの疾患の初期症状(前駆症状)だった可能性がある。このような見かけ上の関係性は初期症状バイアスと呼ばれる。

 因果関係を証明するには昼寝がこれらの疾患を引き起こすメカニズムを解明する必要があるが、なかなか糸口がつかめずにいる中、ここ数年、昼寝の頻度や長さと関連する遺伝子が続々と見つかり、薄ぼんやりとだが光が見えてきた。冒頭で紹介したハーバード大学による発見もその一つである。

 この研究は約50万人が参加している英国バイオバンクの遺伝情報を活用して行われた。このバンクには、英国在住の40~69歳のボランティアが自身の遺伝子情報(ゲノム)と血液、尿、唾液などの生体試料、ライフスタイルや健康情報を提供し、その後も追跡研究に協力している。

 ハーバード大学のグループが彼らの遺伝情報を解析したところ、昼寝の頻度と関連する123の遺伝子座(遺伝子の領域)が見つかった。参加者はライフスタイルに関する質問の中で、「日中に昼寝をしますか」という項目に、「したことがない/まれ」「時々」「通常」「答えたくない」の4つの中から回答している。このような大雑把な質問で、昼寝習慣に関連する遺伝子座がよくも見つかったものだと感心するが、数十万人という大規模サンプルの検出力のたまものだろう。

 参加者のうち約10万人はアクチグラフという腕時計型デバイスで客観的な睡眠計測も行っている。123の遺伝子の内の幾つかは昼寝が疑われる休息時間の長さとの関連が確認されている。自己申告だけではなく客観的昼寝データでも関連が見られたことはこのデータの信憑性を高めている。

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