第123回 昼寝の多さは自己責任ではなく遺伝? 昼寝と生活習慣病に関わる遺伝子を発見
近年、大規模な遺伝研究コホート(遺伝子を提供するボランティア集団)を舞台に、進展著しい遺伝子解析技術を駆使することで、様々な病気や体の機能の仕組みが明らかにされつつある。睡眠医学の領域でも、最近、ハーバード大学の研究グループが昼寝の頻度と関連する遺伝子を多数見つけ、その多くが生活習慣病と関連していることを明らかにした(※)。
昼寝という日常的かつ自己選択的だと思われている行動に遺伝子が関与していたという事実にも驚きを覚えたが、見つかった遺伝子群の多くが生活習慣病やその原因となる睡眠障害の罹患リスクと関連していたのを知って“なるほど!”と膝を打つ思いであった。なぜなら、これまで疫学的事実として知られていた昼寝と生活習慣病リスクとの関係が単なる相関関係ではなく因果関係である可能性を示唆しているからだ。
さて、本連載では睡眠不足(睡眠負債)による日中の眠気や昼寝の話題はこれまで何度も取り上げてきた。第63回「シエスタとるなら昼寝は短めに」では昼寝のテクニックについて、第21回 「「睡眠禁止ゾーン」って何?」ではそもそもシエスタの時間帯にナゼ眠気が生じるのか、そのメカニズムについても解説している。
休日の昼寝は心地よく、安らぎの時間と感じている方も多いと思う。ところが、昼寝好きが思わず眉をひそめてしまうような研究結果が次々と報告されている。例えば、昼寝の回数が多い、昼寝が長いことが将来的に高血圧や糖尿病、心臓病などの生活習慣病の発症や、ひいては死亡リスクの増大と関連する、などはその代表である。
昼寝はうつ病や認知症などの精神疾患とも関連している。第28回「認知症と睡眠の切っても切れない関係」でも触れたが、日中の眠気の強さや昼寝の長さが認知症の発症リスクの高さと関連していることが繰り返し報告されており、最近では過去の数多くの報告を統合したメタ解析研究でもその関係性が再確認されている。
(※)https://doi.org/10.1038/s41467-020-20585-3おすすめ関連書籍
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