「腕時計」と「砂時計」は競合するのではなく、通常は相互にうまく連携している。

 例えば、深部体温(脳温)は体内時計の強い支配下にある「腕時計」型の生体機能なのだが、「砂時計」の働きもサポートしている。深部体温は普段寝つく時刻の2時間ほど前に最高温度に達した後、「砂時計」型のノンレム睡眠が集中する睡眠の前半期に急速に低下する。これはノンレム睡眠の目的の一つが脳の冷却にあることを考えると合理的である。詳しくは第6回「お風呂で快眠できるワケ」を参照していただきたい。そして、下降を続けた深部体温が明け方に最低温度となり、これから反転して上昇しようかという時間帯で入れ替わるようにレム睡眠の勢いが最高潮になる。朝の二度寝のまどろみ夢は正にこのタイミングで出現する。

 レム睡眠とノンレム睡眠はこのように時刻によって縄張りを決めているのだが、前半と後半でキッチリ“棲み分け”ているわけではない。レム睡眠は睡眠の前半、まだノンレム睡眠の勢いが強い時間帯から約90分周期で出現する。睡眠前半期のレム睡眠は持続時間が短いなど勢いは乏しいが、中高年ではこのタイミング(入眠後1時間半や3時間後など)で中途覚醒をしやすく迷惑を被っている患者さんも多い。

 実はレム睡眠とノンレム睡眠がモザイク状に出現する理由はよく分かっていない。そもそもノンレム睡眠の最中にレム睡眠が“侵入”しているのではなく、順番が逆なのかもしれない。睡眠の進化はレム睡眠から始まり、大脳皮質が発達するにつれてノンレム睡眠が進化したという説がある。

 もともとはレム睡眠が夜間全体にシマを張っていた。捕食動物のいる生物にとって眠り続けるのは命の危険を伴う。そのため外敵から身を守るためにレム睡眠は断続的になったのだろう。そこに、新興勢力であるノンレム睡眠が登場し、レム睡眠の隙間に入り込んだ。長い抗争の後、ノンレム睡眠は夜の前半を中心に縄張りを拡げ、古参のレム睡眠を睡眠後半に押しやった……なんてゴッドファーザー風の物語があったのかもしれない。

 ちなみにノンレム睡眠は時刻指定ではないので、例えば夜勤や徹夜をして明け方から寝れば「砂時計」はひっくり返され、直後から深いノンレム睡眠が出現する。

 ただし、このような不規則な寝方をすると「腕時計」と「砂時計」の競合が生じる。寝入りばなにレム睡眠が挿入してきて夢見が多かったり、熟眠感が減ったりする。夜勤明けの睡眠の質が良くないと訴える人が多いが、ある意味で仕方が無い生体反応であると言える。レム睡眠を責めるわけにはいかないだろう。だってそもそも彼らの縄張りなのだから。

 心地よいまどろみ夢を見たいならば、規則正しい睡眠リズムが必須なのである。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

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