(イラスト:三島由美子)
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「睡眠の質が良い、悪い」「運動で睡眠の質を向上させる」などと言うが、では睡眠の質をどのように評価するか、何かの数値で示せるかというと、これがなかなか難しい。

 幾つか具体例を挙げてみよう。

 まず、同じような眠り方をしていても睡眠の質の感じ方に大きな違いがある。寝ている途中でたった1回目が覚めただけで「睡眠の質がとても悪い、苦しい」と感じて受診する患者がいる一方で、2、3回目を覚ましても「年を取ればこんなものだろ」と平然としている同年代の人もいる。同じことが、寝つきにかかる時間や総睡眠時間などについても言える。睡眠の質を評価する物差しが人の主観(自覚)にはそもそも存在しないのである。

 では睡眠ポリグラフ検査などで睡眠の深さや長さを客観的に調べれば睡眠の質を正しく評価できるのか? 

 確かに健康な人で睡眠脳波を何度も測定すると、ぐっすり眠れた夜に比べて寝苦しかった夜では深い睡眠が減って中途覚醒が増えることが多い。つまり本人が感じる睡眠の質と客観データがある程度相関する。ところが睡眠障害患者ではこの関係性が曖昧になる。

 例えば、慢性不眠症患者では自分で感じている睡眠(主観)と、睡眠脳波データ(客観)とが必ずしも一致しない。一致しないどころかトンデモなくかけ離れることがある。例えば自分では寝つくのに1時間以上かかったと感じても脳波上は10分程度で眠っていることもある(詳しくは第12回「不眠症の本質は睡眠時間の誤認である」を参照)。

 もう1つ主観と客観が乖離(かいり)する例を挙げよう。

 ある研究によりバソプレッシンというホルモンを高齢者に投与すると若者並みに深い睡眠が増えることが分かった。年齢とともに深い睡眠は減るので、バソプレッシンには一種の睡眠の若返り効果があるように見え、不眠症治療薬として期待された。ところが、朝起きた高齢者に感想を聞くと熟眠感(主観)は改善しておらず、治療薬としての開発が断念された。

次ページ:主観と客観のどちらが大事?

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