第100回 「上質な睡眠を」と言われても、その「質」が難しい

 今回のテーマを選んだきっかけをご紹介して閉じたいと思う。最近ある企業から新薬開発に関する協力を求められ、その際に、ここでご紹介したような内容が話題に出た。せっかくなので本コラムでも睡眠の質の良し悪しを評価する難しさについてご紹介しようと思い立った次第である。

 7年ほど前、厚生労働省と医薬品医療機器総合機構の依頼で『睡眠障害治療薬の臨床評価方法に関するガイドライン』を作成した。これは別名「治験ガイドライン」と呼ばれ、簡単に言えば睡眠障害用の新薬を開発するときの手順書のようなものである。

 日本での睡眠障害治療薬の治験ガイドラインの改訂は20年ぶりだったので、修正を要する項目が多数あり、その1つが睡眠評価法であった。特に睡眠脳波の計測を従来のように睡眠検査室内で行ってよいかが論議となった。新薬の開発は日米欧をまたいで行われることも多いため、各国で試験手順の足並みを整える必要がある。すでに欧州EUの治験ガイドラインではその数年前に在宅での睡眠評価の重要性について指摘していたことを受けて、日本版の改訂でも協議されることになった。

 結果的に、日本の治験ガイドラインでも欧州と同様の指摘を行ったのだが、手順書に在宅での睡眠検査を具体的に盛り込むことまではしなかった。その当時は自宅で簡便かつ精密に睡眠脳波を測定できるデバイスが存在しなかったためだ。しかし、近年の技術革新によって自宅で簡単に装着でき、軽量小型で装着感が良く、自然な寝姿で夜を過ごせるような睡眠ポリグラフ検査用のデバイスが次々と開発されている。これらのデバイスの安全性や精度が向上して医療機器として進化すれば、新薬治験や診療に必要な在宅測定も実現できそうな勢いである。そうなれば主観と客観の両面から画期的な治療薬の開発や効果的な睡眠指導法も行えるようになるだろう。その日が来るのが実に待ち遠しい。

つづく

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三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。