第100回 「上質な睡眠を」と言われても、その「質」が難しい

「睡眠は脳を休めるためにあるのだから、脳波上間違いなく眠っている客観的睡眠の方が大事だろう」という考え方には一理ある。実際、客観的な睡眠時間が短い不眠症患者は、主観的睡眠時間だけが短い患者に比べて生活習慣病やうつ病のリスクが高いことも明らかになっている(第90回「見極めが重要、不眠症の2つのタイプとは」)。ところが、医薬品の開発では睡眠の質の「主観的改善」も伴わなければ承認されない。客観的睡眠が改善していても主観的満足度が低いままだと日中の生活機能やメンタルヘルスの悪化が防げないからである。この両者を満たす医薬品の開発はかなり難しい。

 睡眠の質を評価するのは基本的に本人。すなわち主観が大事なのだが、良し悪しを区別する具体的な数値を設定することはできない。また、「主観と客観、いったいどちらが大事なのか?」という問いに関する明確な答えは出ていない。「どちらも大事」というつまらない回答しか用意できないのである。

 さらに、主観でも客観でもよいのだが、睡眠の質を評価するには「どの日の睡眠」を「どこで測定」すればよいかについても悩ましい問題がある。

 まずは「どの日の睡眠」問題について。睡眠状態は日々大きく変動する。いったいどの日の睡眠をもって自分の平均的な睡眠状態と考えればよいのか? どの程度眠れなければ病的と判断すべきなのか? 実はしっかりとした基準は決まっていない。365日、毎晩眠れない不眠症の患者はごくごく少数派。不眠が何晩か続いた後で長めに眠れる夜が現れるパターンもあれば、多くの夜は眠れるが時折不眠が現れるパターンもある。そのため、不眠症の診断基準では「週に3日以上不眠があり、その結果として日中に不調を感じている」時に診断することになっている。そもそもこの「週に3日」という基準も明確な根拠があって決められたと言うより、専門家(エキスパート)の協議で大まかな指標として定められただけなのである。

 最後の例として、これは患者をみるときの話だが、睡眠脳波を「どこで測定」すべきか問題について。

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