第122回 知られざる子どもの不眠症、とても苦しい「特発性不眠症」とは

 成人の慢性不眠症は生活習慣病やうつ病、認知症などとの関連が明らかにされているが、特発性不眠症の子どもが中長期的にどのような予後を向かえるのか全くといってよいほど情報が無い。ただし、幾つかの調査研究によれば、メンタルヘルスへの影響は注意深く見ていく必要がありそうだ。

 例えば、米ジョンズ・ホプキンス大学の医学生1053人を34年間にわたり追跡した研究によれば、学生時代に不眠があった者のうち観察期間中に101人(9.6%)がうつ病に罹患し、13人が自殺したという。うつ病の罹患率は不眠が無い者の2倍であった。この調査で不眠を呈していた医学生が特発性不眠症であったか不明だが、若い頃から不眠に悩む人は成人後にメンタルヘルスが悪化しやすいことを示唆している。

 不眠自体がメンタルヘルスを悪化させるのか、不眠やうつ病を引き起こす何らかの問題が幼少時から存在しているのか、現時点では不明である。私自身は不眠やうつ病に共通して認められる“生理的過覚醒”が一つの鍵だと考えている。

 生理的過覚醒とは些細なストレスでもストレスホルモン(副腎皮質ホルモン)が増加しやすい、交感神経が緊張しやすいといった過剰な生体警告反応(ストレスに対する身構え反応)が生じる状態をさす。特発性不眠症の子どもでは、幼少時から生理的過覚醒が作動しやすい体質を抱えているのではないかと推測している。

 病因も不明、特効的な治療法も無い特発性不眠症だが、周囲が早くその存在に気付き、心理面、環境面でサポートすることで症状を緩和し、将来的な健康リスクを低減することができるかもしれない。子どもがかかる不眠症もあることを知っていただきたい。

つづく

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三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。