第43回 自殺と睡眠

■自殺行動の前兆となる危険なサイン■

  • ① 自殺をほのめかす
  • ② 自殺の手段を探している
  • ③ 絶望感や生きる意味がないと言う
  • ④ 追い詰められた気分、耐えがたい苦痛を訴える
  • ⑤ 周囲の負担になっていると言う
  • ⑥ 酒量や服薬の増加
  • ⑦ 不安や焦燥、衝動性に駆られた行動
  • ⑧ 強い不眠、もしくは過眠
  • ⑨ 周囲を避ける、もしくは疎外感
  • ⑩ 激情、復讐の企て
  • ⑪ 気分が変動しやすい

 ①②はさておき、その他のサインは自殺だけに特有な症状ではない。うつ病や不安障害、PTSDなど多くの精神疾患に広くみられる症状である。それでもいくつかの兆候が重なっているとき、自殺リスクを考慮しておくことは予防のための大事なステップとなる。

 私が研修医時代に使っていた精神医学の教科書でも、自殺リスクを高める症状として、苦悩に満ちた不眠、自己抹殺や墜落、破局の夢、を挙げていた。古くから不眠や悪夢が自殺者でしばしば見られることに臨床医は気づいていたのだ。

 これまで行われた数多くの疫学調査によって睡眠問題(特に不眠と悪夢)が希死念慮(死んでしまいたい、死んで楽になりたい気持ち)、自殺企図(実際に企てたが死に至らなかった)、自殺既遂(死に至った)のリスク増大に関連することが明らかにされている。1966-2011年に発表された睡眠問題と自殺リスクに関する39の論文(調査対象147,753名)をメタ解析した結果では、慢性不眠がある人では希死念慮、自殺企図、自殺既遂が生じるリスクが約2倍に、悪夢がある人では約1.7倍に上昇することが明らかにされている。

  希死念慮 自殺企図 自殺既遂
睡眠障害(全タイプ) 1.86 2.01 1.96
不 眠 1.94 1.99 2.15
悪 夢 1.75 1.76 1.57

 先の「自殺行動の前兆となる危険なサイン」や「自殺リスクを高める症状」で挙げられている、激情、衝動性、苦痛、不安焦燥、不眠、悪夢、気分変動などの間にはある共通したキーワードが横たわっている。それは脳内セロトニン神経機能の低下であり、これらの症状はセロトニン徴候(Serotonergic trait)とも総称されている。

 セロトニン徴候がなぜ自殺リスクにつながるのか。自殺の病理研究で有名なMann JJの仮説をもとに解説しよう。

Mann JJによる自殺の生物学的モデル。Mann JJは神経科学的知見から、最後の一押しをしてしまうのが絶望感と衝動性であると考えた。不眠・悪夢は筆者が追記。(画像提供:三島和夫)
Mann JJによる自殺の生物学的モデル。Mann JJは神経科学的知見から、最後の一押しをしてしまうのが絶望感と衝動性であると考えた。不眠・悪夢は筆者が追記。(画像提供:三島和夫)
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