第132回 「睡眠儀式」が子どもの寝かしつけに効くワケ

 睡眠儀式の定義を少し広めに取ると、夕食後の団らんに始まり就床、消灯に至るまでの一連の行動すべてが睡眠儀式に含まれる。睡眠儀式には不安の緩和作用以外にも、“条件付け”を通じて就床時刻に向けて心身を眠りやすくコンディショニングする効果がある。加えて、自律神経やホルモン分泌を調節して睡眠をいざなう“催眠作用”も併せ持つ。

 これらの睡眠儀式の効果は子どもに限らず大人でも実証されている。“条件付け”と“催眠作用”についてもう少し詳しく解説しよう。

“条件付け”の例として、レモンを見る(条件刺激)→レモンを囓る(無条件刺激:学習なしに生来的に反応が起きるため「無条件」と呼ぶ)→唾液が出る(無条件反応)という体験を繰り返すと、条件刺激(レモンを見た)だけで唾液が出る(無条件反応が起こる)ようになる。睡眠に置き換えると、毎晩8時になったらお風呂に入る、上がったらパジャマに着替える、歯磨きをする、寝室で横になる、読み聞かせ、消灯、眠くなるという日々同じ睡眠儀式を繰り返すと、睡眠儀式をしただけで眠気が生じるという戦略である。「そろそろお風呂に入ろうか」「パジャマに着替えてね!」「読み聞かせをするよー」という声かけだけで眠気が増すのであれば、子どもの寝かしつけに利用しない手はない。

 また幾つかの睡眠儀式は心理的効果だけではなく、それ自体が“催眠作用”を持つ。

 睡眠の大事な役割の一つが体の深部(特に脳)の冷却である。就床時刻が近づくと手足の皮膚表面の血流が増加し、温かい血液の熱が外部に逃げ、冷やされた血液が体深部に戻って脳や内臓の温度を下げる。この一連の現象を加速するのが睡眠で、言い換えれば睡眠は脳のエアコンの役割を果たしているのである。子どもを抱っこしていると手足がポッカリしてきて間もなくウトウトと寝始めるのはそのためだ。入浴すると深部体温が一気に上昇し、脳を冷やす必要が生じるのでエアコンたる睡眠が誘発されるのだ。詳しいメカニズムは第6回「お風呂で快眠できるワケ」で説明しているのでどうぞ。抱っこでリラックスしていれば血管も拡張しやすくなるので放熱の相乗効果があること間違いなし。さらに、お風呂から上がった後は靴下をはいておらず、また発汗しやすいパジャマに着替えることでも体から放熱しやすくなる。

 読み聞かせで寝床に横になること自体も眠気を引き出す。体を起こしているときは頭に血液を送るために血圧を上げる必要があり、手足の血管は収縮する。体を横たえると重力から解放されて血圧をさほど上げる必要がなくなるため手足の血管が拡張して血流も増える。つまり放熱しやすくなる。

 照明を暗くするのも眠気を誘うのに効果的だ。明るい照明は交感神経を刺激し、催眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制してしまうからである。就床時刻が近づいたら交感神経やメラトニンに影響しにくい暖色系ライトを使用したり、間接照明を使うなどして室内照度を低めに設定するのも立派な睡眠儀式になる。

 このように睡眠儀式には不安を和らげ、条件付けや催眠作用を介して眠気をいざなう効果がある。ポイントは子ども自身に、安心できる儀式、お気に入りのグッズを見つけてもらうこと。「もうお姉ちゃんなんだから」といってぬいぐるみを取り上げる必要は無い。大人だってさしたる科学的根拠もないサプリやアロマを儀式に使っているじゃありませんか。

つづく

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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。