第132回 「睡眠儀式」が子どもの寝かしつけに効くワケ
私の研究室から巣立った若手研究者から年賀状をもらった。裏面を見ると、「家族が増えました! 子どもの寝かしつけで逆に寝かしつけられ、睡眠不足が一気に解消です(汗)」というメッセージが可愛い赤ちゃんの写真付きで書かれていた。同じような経験や苦労をしている新米ママやパパも多いのではないだろうか。
赤ちゃんを寝かしつける方法としては、子守歌や抱っこ、添い寝で背中やお尻をポンポンするなどが定番である。抱っこにも赤ちゃんの頭を親の胸に当てる“縦抱っこ”、腹に当てる“ラッコ抱き”など幾つかバリエーションがある。親の心音が聞こえると赤ちゃんが安心するのだそうだ。
そういえば私自身も誰に教わるともなく“縦抱っこ”で子どもをあやしていた記憶がある。赤ちゃんの寝かしつけ方としては、聴覚や触覚を介して保育者が身近にいるよと安心させて眠気を誘う方法が主流と言える。
もう少し大きくなると、絵本の読み聞かせやお話しをするなどが多い。話の内容が大事と言うより、母親がそばにいて優しい声で語りかける安心感が大事なのではないか。少なくとも我が家では、私が “日本昔話”や“千夜一夜物語”を読み聞かせても全く寝ようとしないのに、妻に交代すると不思議とおとなしく話に聞き入りそのまま眠りに入っていた。
さて、このような寝る前に行うパターン化された行動を専門的には「睡眠儀式(bedtime routine)」と呼ぶ。子どもの頃は同じ物や行動に固執する傾向が強く、お気に入りの絵本、ぬいぐるみ、パジャマなどを使った睡眠儀式がしばしば見られる。スヌーピーに登場するライナスもいつも同じ毛布(ブランケット)を握りしめていた。睡眠儀式やお休みグッズが寝かしつけに有効であることは多くの経験談からも確かに思われるが、そのメカニズムには諸説ある。
しばしば言われるのは、抱っこや添い寝によるポンポン、子守歌などは子どもの「分離不安」を和らげる効果があるという説である。分離不安とは保護者など身近で守ってくれる人が離れたときに出現する不安感で、特に赤ちゃんの頃に見られる正常な反応である。私の子どもの場合も、抱っこでようやく寝ついた後に、そっとベビーベッドに寝かせるとすぐに目覚めて泣き出すので「背中に覚醒スイッチでもあるようだね」と笑っていたが、手を握るなどして安心させると眠気と安心があいまって再び寝つくことが多かった。これも立派な睡眠儀式といえる。
物心がついてくると親と短時間離れてもまた戻ってくることを理解しているため不安感はなくなる。それでも夜、一人で暗い寝室で寝ることに不安を感じる子どもは多く、それを和らげるために寝かしつけが必要になる。不安や緊張は入眠困難の最大の原因なので、子守歌や抱っこなどの寝かしつけやお気に入りのグッズで安心感が得られるのであれば寝付きを助ける効果があるだろう。
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